クリニック開業の融資とは?利用できる融資や流れ・自己資金の目安について
クリニック開業には、多額の資金が必要です。自己資金だけでの開業をするケースは少なく、融資を受けることがほとんどです。
クリニックなどの医療機関の開業時に利用できる融資にはいくつか種類があり、それぞれ条件や特徴があります。融資を検討されている方には、どの融資なら受けられるのか悩んでいる場合もあるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、融資の種類や融資を受ける際の流れについて具体的に解説しています。
目次
クリニック開業で利用できる融資とは?
融資とは「お金を必要とするものに貸し、資金を融通すること」を指します。
一般的には、勤務医として経験を積みながら、独立開業のための自己資金を蓄えるケースがほとんどでしょう。
しかし、クリニックを開業するには多額の資金が必要なので、自己資金だけでは対応できないことがほとんどです。このため開業を検討する場合、政府系金融機関や民間金融機関、自治体、医師会などから、資金を調達します。
融資を受けるためには、事前の準備が大変重要ですので、準備のために知識や流れを確認しておきましょう。
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クリニック開業に必要な資金は?
クリニックの開業に必要な資金は、主に開業資金と運転資金です。
一般的な事業資金融資では、開業資金・運転資金を、資金使途毎に別々に借入します。
一方、クリニック開業に必要な「医業開業資金」は、開業資金と運転資金を、一括で借り入れることも多いです。
クリニックの開業にあたっては、開業に向けた施設・設備の工事に必要な開業資金と、宣伝広告、開業前のスタッフの給与などの運転資金の支払いが同時に発生します。
支払先や金額、時期はばらばらなので、一般的な事業融資と融資形式が異なるのです。
開業資金
クリニックの開票に必要な資金は、開業資金と運転資金に分けて扱われています。開業資金は設備資金と表現されることもあります。どちらにしても、ハード面の費用を指していることに変わりはありません。
設備資金は、その名の通り設備・ハード面にかかる費用です。クリニックの場合は、店舗の内装・改装費、パソコンや関連機器などが該当します。なかでも、医療機器費用は設備費用の大きな割合を占めるものになるでしょう。
とくに、外科系や美容外科・美容皮膚科は、医療機器や検査機器が必要なので、他の診療科に比べると高額になりがちです。
設備資金については長期的な効果を見据えて、本当に必要なものかを検討することが重要です。
運転資金
運転資金は、テナント家賃や人件費、水道光熱費、通信費、諸経費など、開業までの準備にかかる費用です。
運転資金は主に、「変動費」「固定費」の2つに分けられます。
「変動費」は、医療材料や医薬品の費用など、売上に応じて日々変動する費用です。
一方「固定費」は人件費やテナント家賃など、売上に連動しない固定した費用を指します。
変動費は売上に応じて変動するため、売上が少なければ変動費も少ないことがほとんどです。収益に大きな影響を与えにくいと言えます。
しかし、固定費は売上に関係なく一定の費用がかかります。固定費の割合が多いと、安定した売り上げを確保しにくく、経営が厳しい状態に陥ります。
開業当初は売上の見込みが立てにくいので、固定費は抑えるように配慮すべきでしょう。
クリニック開業で利用できる融資の種類
クリニックを開業する場合、全額自己負担でまかなえるケースはほとんどないでしょう。多くの場合は、融資を受けて資金調達する必要があります。
利用できる融資は、次のような種類です。
- 日本政策金融公庫の融資
- 医師会・地方自治体の融資
- 信用保証協会の制度融資
- 民間金融機関の融資
ここからは、それぞれの融資について解説していきます。
日本政策金融公庫の融資
日本政策金融公庫は、政府系金融機関です。中小事業者向けに開業資金・運転資金の貸し付けを行っており、比較的低金利で融資を受けられるのが特徴と言えるでしょう。
クリニックや医院の開業資金調達先としては、対象外と勘違いされる方もいますが、医療機関も融資対象です。日本政策金融公庫は、医院開業の融資において、代表的な政府系金融機関の1つでもあります。
ただし、クリニック専用の融資商品はないので、「新規開業資金」「新創業融資制度」などを利用します。
日本政策金融公庫では、医療法人でも個人でも融資を受けられますが、医療法人化する場合は保証人が必要です。
医師会・地方自治体の融資
各都道府県の医師会においても、医師信用組合や地方自治体と連携して、新規開業ローンの商品が準備されています。ただし、取り扱っていない都道府県もあるので、開業予定地を決める際にはチェックしておく必要があります。
医師会の融資を受けるためには、医師会に加入しなければなりません。都道府県によっても異なりますが、医療機関の開設者の場合は、入会時に必要な費用が数百万円と高額です。ただし医師会入会金自体にも、サポートローンを組めるため、入会ができないという心配は解消されます。
医師会による融資は、無担保であり比較的審査にも通りやすいと言われていますので、選択肢の1つになりえるでしょう。
信用保証協会の制度融資
信用保証協会は全国の都道府県にある、中小企業や小規模事業者の資金調達を支援する公的な金融機関です。
クリニック開業の融資を受けるための条件は、使用する従業員が300人以下であること、信用保証協会の間隔区域で事業を営むことなどがあげられます。開業地域が限定されることはデメリットに感じるかもしれません。また、融資実行時に全返済期間分の保証料を徴収されること、面談・事務手続きが多い点もデメリットと言えます。
信用保証協会のメリットとしては、担保なしでも利用できる、法人代表者以外は連帯保証人が不要、金融機関の融資と保証付き融資の併用が可能で融資枠が拡大できることなど、メリットも多いのが特徴です。
民間金融機関の融資
銀行などの民間金融機関は、これまで紹介した融資期間に比べ、融資のハードルが高いと言えます。特に、メガバンクや都市銀行では、既に開業している医療機関への融資は積極的ですが、新規開業のクリニックや医院への融資には積極的でない傾向が見受けられます。ただし、近年では日銀のマイナス金利政策などを背景に、都市銀行でも新規開業への融資に積極的になっているところもあるようです。
金融機関によっては、クリニックや医院の開業に特化した融資を提供しているところもあり、その多くは無担保・無保証人貸付や、低金利の長期貸付を特徴とします。
また、地域銀行はメガバンクに比べて金利が低く、審査が通りやすいと言われています。
交渉次第では利率が下がるなど、公的機関の融資より融通が利きやすいのも特徴です。
クリニック開業の自己資金の目安は?
クリニックの開業の自己資金は、開業資金の総額の2割程度が目安と言われています。開業する診療科目にもよりますが、概ね1,000万円~2,000万円程度でしょう。
自己資金が少ないからと言って、開業できないわけではありません。ただし、自己資金があれば、開業計画をしっかり立て準備してきたという姿勢のアピールにつながるため、自己資金は多く準備できている方がより良いでしょう。
クリニック開業で融資を受ける際の流れ
クリニック開業医の融資を受ける際の流れは、次の5つのステップを踏みます。
・融資条件を確認する
・必要書類を提出する
・融資担当者と面談をする
・審査を受ける
・融資決定
開業後に資金が不足しても、追加で融資を受けることは困難です。融資を受ける際には、開業までの設備資金、経営が安定するまでの運転資金や返済計画を綿密に作成しておきましょう。
融資条件を確認する
融資を受ける際には、まず融資条件を確認しますが、それより先に開業するクリニックの「経営理念」「コンセプト」など、経営ビジョンを明確化しておく必要があります。
そのうえで、開業に必要な開業資金・運営資金を算出しなければなりません。調達しなければならない資金や経営ビジョンが明確でなければ、融資条件の確認のしようがないのです。
金融機関によっては開業地域が限定されるもの、組合への加入が必要なものもあるので、自分の開業計画に合わせて金融機関を選ぶ必要があります。
必要書類を提出する
融資希望額や条件があう金融機関が見つかったら、必要な書類の準備を進めなければなりません。
金融機関から指定された書類を漏れなく作成していきましょう。
主に必要とされる書類をいくつか示します。
- 前2~3年分の確定申告書
- 医師免許証・歯科医師免許証コピー
- 内装代(建築費)の見積書
- 賃貸借契約書のコピー
- 現在の負債がわかるもの
- 事業計画書など
各種見積書などは、早めに作成を依頼して資料の提出期限に間に合うように準備しましょう。
そして事業計画書は、クリニックを成功に導くためのプランです。経営戦略を金融機関に伝え、融資を受けられるよう細やかに作成しましょう。自分の開業に向けた意気込みを見せる書類でもあります。
融資担当者と面談をする
上記の必要書類を提出した後は、金融機関の融資担当者との面談があります。
面談の目的は、「融資したお金をきちんと返済できるか」という判断をすることです。
面談で確認される内容は次のようなものです。
- 提出された必要書類の内容確認
- 開業計画・経営戦略の実現可能性
- 経営者としての人柄や開業への気持ちのヒアリング
- 事業がうまくいかない場合のリスクマネジメント
必要書類の確認は、事業計画書の確認が中心です。この中で、地域への貢献についての想いや人柄を確認されます。
開業にあたって、コンサルタントや税理士に書類作成を委託するケースもあると思いますが、経営ビジョンを自分の言葉で説明し、効果的なプレゼンテーションになるように準備しましょう。
審査を受ける
金融機関との面談が終了したら、事業計画書、設備投資の内容、面談の内容を元に、金融機関内で審査が行われます。
審査にかかる時間は、金融機関ごとに異なります。
民間の金融機関は、比較的早く約2週間で審査結果が出ます。一方、地方自治体が主体になる融資や、政府系金融機関である日本政策金融公庫など公的なものは、審査結果が出るまで2週間以上必要になることが多いようです。
金融機関によって審査結果が出るまでの時間が異なり、スケジュールが変わってしまいます。開業までのスケジュールは余裕を持って、取り組みましょう。
融資決定
審査が終了すると、金融機関が審査を決定します。結果は、融資担当者から可否の連絡があるか、事前に伝えられていた時期に正式な借入契約書が郵送されてきます。
複数の金融機関に対して融資を打診していた場合は、各金融機関の提案書を比較しましょう。比較する項目は、
- 金利
- 融資条件
- 返済期限
- 保証人の有無
などです。
項目を比較したうえで、開業するクリニックにとって、条件の良い融資を選定する必要があります。
ここまで来て初めて、融資が決定します。融資申し込みから実行までは、概ね3週間~1カ月半程度かかるので、スケジュールは余裕を持っておきましょう。
クリニック開業で融資を受ける際の注意点
クリニック開業で融資を受けるためには、事前の準備が重要です。また、融資を受けられると決まった後も注意点がいくつかあります。
- 開業の動機や理念が重要
- 緻密な事業計画が必須
- 資金使途違反に注意
- 固定金利・変動金利の利率に注意
金融機関は、貸し付けた金額の返済ができる将来性があるかどうかを見極めるため、開業動機や理念、事業計画を明確化して、金融機関に示す必要があります。また、融資が決定した後も、正しくよりよく運用するために、違反や金利について知っておかねばなりません。
開業の動機や理念が重要
開業の動機や理念は、融資の審査を受ける際に重要な役割を果たします。どのような患者さんを対象にしているのか、どのような医療サービスを提供していくのか、地域にどう貢献していくのかなど、開業に向けた思いを明確化しておきましょう。金融機関側は、地域への貢献度や、開業者の人柄も確認しています。
また、開業の動機・理念は、開業後の経営にも重要です。特に理念は、クリニックで働くスタッフの行動指針になる、大切な役割を持っています。開業後の順調な経営にもつながり、貸付金の計画的な返済を目指せるでしょう。
緻密な事業計画が必須
融資を提供する金融機関は、「融資したお金を返金できるかどうか」という視点で、審査を行います。このため、融資を受ける際には、経営理念などを含む経営の土台となる基本的な計画から、クリニック開業後のキャッシュフロー(現金収入と支出)を含んだ資金計画・収支計画などの、緻密な計画は必須です。
これらの計画を立てることは、開業後の資金不足を防ぐため、開業後の経営を予測するためにも重要です。
開業直後の経営は安定しません。どれくらいの運転資金を準備すれば、資金不足を防いで経営できるのかを把握する手段としても、事業計画は大切です。
資金使途違反に注意
融資で金融機関から借り入れた資金は、約束した通りに使用しなければなりません。約束した目的以外に使用した場合は、「資金使途違反」となります。注意しなくてはならないのは、しらずしらずのうちに違反してしまう事です。
金融機関は、投資用有価証券の購入や、個人や関連企業への転貸などに、お金を貸すことがありません。もし、融資で借り入れた資金をこのような内容に使うと、資金使途違反となります。
自分では知らないうちに、資金使途違反をしてしまう可能性があるので、資金の使途については、しっかり把握しておきましょう。
固定金利・変動金利の利率に注意
金融機関から融資を受ける際、固定金利と変動金利の2つの金利から選べます。
固定金利は、融資実行時に決められた金利が、固定されたままです。返済途中で市中金利が上がっても、影響をうけません。デメリットとしては、変動金利に比較して金利が高めです。
一方、変動金利は金利が変動します。日本国内の金利が変動すると、金融機関は利率を改定するためです。
変動金利は固定金利より低い利率であることがメリットの1つです。デメリットは市中金利が急騰してしまうと、金利も大幅に引き上げられることです。
それぞれの金利には、これらのメリットとデメリットがあるので、景気の変動や自分が借り入れた融資の返済計画を考慮して選択しましょう。
クリニック開業の融資は準備段階から慎重に!
クリニックを開業する際、多くの場合融資が必要です。
融資を受けるためには、経営理念や事業計画を立てますが、全てに先立って「こんなクリニックにしたい」という院長としての思いを言語化しておくことが大切です。
一貫性のある経営理念・診療方針や事業計画を立てる時に、重要な役割を果たします。
そして融資の審査においては、院長の開業に向けた「熱意」とともに計画の慎重さも重要視されます。事業計画は、実現の可能性やリスクを細かく設定して、試算することが大切です。
クリニック開業の融資は、準備段階から慎重に進めていきましょう。