診療所の経営を改善するために必要なこととは?
近年、日本の医療機関の経営は厳しい状況が続いています。特に新型コロナウイルスによる影響は大きく、有床診療所が減るなど診療所の経営への影響も深刻です。
実際に、診療所の経営を改善したいと考えている担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、診療所の経営の現状や経営改善のためのポイントについて解説しています。
目次
診療所・病院の経営の現状
近年、日本の医療機関の経営状態は厳しい傾向が続いています。
厚生労働省の医療施設調査※1によると、令和2年に廃止・休止になった一般診療所は8,704件、病院は142件です。一方、開設・再開した一般診療所は8,700件、病院は80件になっており、一般診療所も病院も数は減少しています。
また、診療所に関しては、令和1年の廃止・休止7,475件であり、令和2年までの1年間で廃止・休止した施設数が増加していることがわかります。
さらに、診療報酬が低くなりがちな有床診療所の数が減少している※2ことも明らかになっています。
このように、従来から経営難の傾向にある医療業会でしたが、2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大により、さらに経営難の傾向が強くなっていると考えられます。
※1参考:令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
※2参考:日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査
海外と比べて病院の数が多い
日本の医療機関の経営難の要因として考えられるのが、医療機関の数の多さです。経済開発協力機構(OECD)の調査でまとめられた人口1,000人当たりの病床数は、日本は13.0床。G7の日本以外の諸外国は、ドイツ8.0床、フランス5.9床、イタリア3.1床、アメリカ2.9床、イギリス2.5床、カナダ2.5床となっています。
海外と比べて日本は、人口あたりの病床数の多さが際立っていることがわかります。
人口に対して医療機関の数が多いと、患者さんが分散してしまい、医療機関の収益も上がりにくくなると考えられます。
国内では4割の病院が赤字
日本の医療機関の経営状況の厳しさは、損失率にも表れています。厚生労働省による「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」の、2021年6月時点の一般病院全体の損失率をみると、約4割の一般病院が赤字の状態であることがわかります。
そして一般診療所の損失率をみると2~3割が赤字を示し、医療機関の形態に限らず、厳しい経営状態にあることが推察されます。
新型コロナウイルスの感染拡大がはじまった2020年6月の時点では、約4割の一般診療所が赤字であるので、2021年は若干回復傾向にあるものの、未だに経営状態に問題を抱えている医療機関は少なくないと言えるでしょう。
参考:「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」 厚生労働省 734
コロナの影響を受けている病院も多い
もともと医療業界の経営状態は厳しい状態ではありましたが、ここ数年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、さらに経営に影響を受けている医療機関もあります。
「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」では、2020年11月時点で42.2%の病院が赤字です。
2021年3月はコロナ患者の受け入れがない病院は、全体の36.1%が赤字。一方、コロナ患者の受け入れを行った病院は全体の62.2%が赤字になっています。
このようにコロナ患者を受け入れた病院の方が、経営状態が悪化しているのです。
コロナ患者を受け入れることによって、医療従事者の人数確保が必要になり、人件費率などが高くなっていること、感染症対策に必要な医療材料の費用の増加などが影響したと推察されます。
参考:日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査
診療所の経営を改善するために見直すポイント
診療所の経営を改善するためには、現在の経営状態をしっかり把握し、分析することが重要でしょう。経営を改善するためのポイントは次の5つです。
- 経営実態を把握する
- 経営戦略・経費の見直し
- 診療所内の生産性をあげる
- 顧客満足度を把握する
- 職員が組織的に動ける仕組みづくりをする
これらを見直し、実行に移すことで、診療所の経営改善の一歩を踏み出せるでしょう。
経営実態を把握する
まずは診療所の経営実態を細かく把握する必要があります。
経営実態を把握するためには、経費を項目に分けて考えると良いでしょう。
収益を下げる要因になりがちなのは、人件費など固定費の増加、診療材料・外注費・仕入れなどの増加、患者数の減少やレセプト単価の低下といった医業収益の減少などの影響が大きいです。
経営改善をめざすためには、これら実態を細やかに把握することが大事です。人件費などの固定を簡単に削減することはできませんが、診療材料の見直しや外注・仕入れ内容の見直しなど、本当に必要な物品やサービスなのか検討して、厳選する必要があるでしょう。
経営戦略・経費の見直し
経営実態を把握・分析した後は、経営戦略や経営方針の目的・目標を明確に示す必要があります。経営の中心になるのは、各医療機関の院長や代表者ですが、実際現場で経営改善のための対策に動くのは、診療所のスタッフです。経営改善は、診療所全体で取り組めるよう目的・目標を共有する必要があります。
経費の見直しでは、なんでも安易に削減しないように注意が必要です。本当に無駄なものがないか、コスト削減の余地がどこにあるのかを検討し、適切にコストマネジメントすることが求められます。
診療所内の生産性を上げる
医療機関の生産性は、次のような式で数値化することができます。
【医療機関の生産性=患者数×平均単価/労働力導入量(スタッフ数)】
数値化することで、その日の生産性を客観的に評価できる指標にできるのです。
生産性をあげるためには、患者数÷勤務スタッフ数で算出される「効率化」をアップ、単価をアップ(付加価値アップ)の2つの視点が重要です。
自由診療を扱っているのであれば、手術1つ1つの価格を見直し、適切な単価に設定することで生産性の向上を目指せます。
また、効率化(患者数÷勤務スタッフ数)を高めるためには、業務の自動化や適正な職員数配置、職員のスキルアップなどを行うことが有効策です。
顧客満足度の把握をする
診療所の経営改善には、収益を増やす必要があります。このため、顧客である患者さんの来院数を増加させることも重要な視点です。来院数増加、つまり集患のためには、現在の来院している患者さんの顧客満足度を調査することが有効です。
顧客満足度の計測方法は、数値評価をベースにしたアンケート調査が用いられることがほとんどです。診察待ち・会計待ちの時間に記入してもらうと効率的でしょう。
顧客満足度はから得られた意見を、医療サービスの改善に反映することで経営改善に有効に活用できます。また、職員に対するポジティブな評価をもらえたときには、職員の業務に対するモチベーションアップにつながり、生産性のアップも期待できます。
職員が組織的に動ける仕組みづくりをする
診療所の経営を改善するためには、職員の力が必要不可欠です。職員と協力して経営改善を進めるためには、担当者を設置しチームを形成して組織的に動ける仕組みを作ることが大切です。
担当者を置くことによって、計画的に経営改善の活動を進められ、経営側と現場側のコミュニケーションを円滑にできます。
担当者には経営改善の業務に集中してもらうことで、行動レベルでの目標・計画設定ができ、計画実行もスムーズになります。実際に現場で働くスタッフも取り組みやすくなるでしょう。
今後診療所経営に求められること
現在日本では、高齢化の進行や疾病構造の変化により、地域包括ケアシステムの構築が進められています。このため医療機関には、自院完結型の医療から、地域完結型の医療が求められています。さらに、医療従事者の働き方改革にも重点を置き、取り組まれているのが現状です。
自院の医療収益のアップや経費削減はもちろん重要ですが、社会に求められている自院の役割を考慮して経営改善を進めることが必要です。
地域連携
団塊の世代が75歳以上になる2025年を目標に、地域包括システムの構築を実現しようとしています。
地域包括システムは、たとえ要介護の状態になっても、自分の住み慣れた地域で自分らしく暮らしていけるような、医療・介護・予防・生活支援が提供できるようなシステムです。
近年の診療報酬改定では、地域包括ケアシステムに関する医療機関・介護施設との連携や、かかりつけ医機能などの推進を高く評価しています。
診療所は地域における「かかりつけ医」が大きな役割の1つでしょう。人々が地元で自分らしく生活をするためには欠かせない存在です。
自院のある地域での役割を考えながら、診療体制や経営改善を行っていく必要があります。
Webでの情報発信
現在はインターネットやスマートフォンの普及により、患者さんの情報収集の方法も
多様化しています。実際に、10代から50代のインターネット利用率は90%以上です。2016年からは60代の利用率が高まり、2020年には70%を超える利用率になっています。
年代を問わず、インターネットの利用が高まり、病院探しでも公式ホームページや口コミサイトなどから、情報収集をしていることが推察されます。
これまでは看板やチラシ、広告等での宣伝で十分な時代もありましたが、現在では、Web上での情報発信が必須と言えます。
最近では感染症対策として、院内の混雑状態を確認してから来院できるような情報発信も評判です。
スタッフの業務効率化
日本では、医療現場での働き方改革の推進が課題になっています。一般企業では働き方改革が2019年から施行されていますが、医療の公益性・専門性の高さにより2024年4月からの施行に先伸ばされているのが現状です。
とは言え、経営改善にはすでにスタッフの業務改善の効率化を取り入れる必要があります。
スタッフは診療所の経営に重要な人的リソースです。スタッフの業務負担を減らして、診療所に定着してもらえるようにすれば、離職率を防ぐことができます。新たな採用に係る人件費を削減できるでしょう。
予約システムや電子カルテなどのツールを導入することで、スタッフの業務の効率化を目指すことができます。
病院の再編統合
医療資源の効率的な運用、医療費の抑制を目的に、2014年に「医療介護確保推進法」が成立し、「地域医療構想」が制度化されています。
この制度により、地域に余剰あるいは不足する医療の機能が明らかにされました。
その結果、厚生労働省より、がん治療や高度急性期を担う診療実績が少ない公立・公的病院など424病院に対して「再編検討」、つまり病院の集約化を提示されたのです。
これを実行することで、コストのかかる急性期ベッドが減り医療費が抑制、医療者のマンパワーが集約することで医療者の負担軽減につながると考えられています。
診療所・病院の経営を改善に成功した事例
厚生労働省は各都道府県に対して、地域内の医療機関と協議しながら、再編統合について対応を決め実施するように求めてきました。
では、実際に診療所や病院の再編統合・業態変化をおこなうことで、経営状況はどのように変化するのでしょうか。
全国には、2つの病院を統合したり、介護事業を展開したり、IT化を導入することで、経営改善につなげた医療機関が実際にあります。
ここでは、実際の事例を紹介します。
介護事業への展開を行った事例
1つ目は、岡山県にある診療所の事例です。
この診療所は、認知症に対応できるよう、複数の介護事業展開を早期から行っていました。
元々は無医村だった土地に内科外科を昭和50年に開業。その後、平成2年からは地域の高齢化が進み、認知症の高齢者が増加している状況を受け、診療所内の敷地内に養老院の設置を行っています。介護保険制度がない時代であり、高齢者や家族の負担を軽減できるようにという想いで開始したのです。
現在では、5つの介護事業を展開しており、法人の事業規模は20億円に到達しています。
地域のニーズにこたえるように経営を行うことで、事業拡大につなげることが示された事例です。
参考:厚生労働省平成29年 医療施設経営安定化推進事業医療施設の経営改善に関する調査研究
IT化によって経営改善を行った事例
八女市にある病院では、ITを積極的に活用して経営改善を実行しています。
平成3年、この病院では患者数が激減し、スタッフが定着せず経営が悪化するという状況に陥っていました。
そこで、職員1人1人の声を聞き院内の状況を把握できるよう、オンデマンドの業務報告書を利用して経営・管理側とスタッフのコミュニケーション促進を実現しています。
さらに、電子カルテを導入することで、スタッフの業務が大幅に効率化されました。結果、スタッフの定着率が高まり、患者さんへの直接的なケアに時間をかけられ、サービスの質も向上しているのです。
電子カルテの導入で職員の業務効率化は大切
電子カルテを導入することで、1人の患者さんのカルテを複数人で同時に共有することができます。紙カルテとは違い情報共有もしやすく、カルテがあくのを待つといった無駄な時間を大幅に削除できるのです。連携できるシステムも多く、予約システムを連携すれば、予約受付の業務負担は大きく軽減できます。
また、カルテを探す・運ぶ・格納するといった、物理的な作業の時間も無くなります。
患者さんに関する情報共有もスムーズなので、重複した情報収集や情報不足が生じにくく、患者さんへの負担も軽減できるでしょう。
診療所向け電子カルテならMEDIBASEにお任せください
診療所で電子カルテの導入をお考えの場合は、自由診療に特化したクラウド型の電子カルテ、MEDIBASEがおすすめです。
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患者数統計や収益分析をできる機能も搭載されているので、診療所の日々の生産性の評価も容易に行うことができるでしょう。
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