病院の経費削減の事例や取り組みについて
近年コロナ禍において受診控えが増え、売上が減っている医療機関が増えています。病院・クリニックの経営を維持するために、各経費を見直し改善することが大切です。
実際に、経営維持のために経費の削減を検討している方も多いのではないでしょうか。
この記事では、経費削減の具体的な方法や、経費削減の成功事例・取り組みについて紹介します。
目次
コロナ禍での受診控えが原因により売上が減少している病院も多い
2000年から2020年の間に一般病院は11%も減少しており、厳しい経営状態である医療機関が増加していることが推察されます。
さらに、2020年以降の新型コロナウイルスの拡大によって、医療機関の受診を控える患者さんが増加し、売上が減少している医療施設は多くなっているのです。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会の調査では、2020年11月時点で赤字の病院は42.2%となっており、特にコロナ患者を受け入れた病院が赤字傾向であることが示されています。
※1:日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人会 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査
また、厚生労働省の「医療経済実態調査」では、病床なしの個人開設クリニックでも、医療収益が-6.9%と減少の傾向にあり、コロナ前の水準に戻すためには、経費削減や経営努力が必須となってくるでしょう。
参考:厚生労働省医療経済実態調査(医療機関等調査)
経費削減に取り組むべき費用とは?
厳しい経営状態を回復させ、経営を維持させるためには、経費削減に取り組む必要があります。
経費削減で優先的に取り組むべき費用には、医療材料費、人件費、電子カルテなどの通信費、水道光熱費などが代表的です。
これらは、経費全体から見ても割合の大きな項目なので、コスト削減ができれば、より大きい成果を得られるでしょう。
ここでは、病院・クリニック・診療所など、規模に関わらず削減に取り組める費用をご紹介いたします。
医療材料費
病院・クリニックで、経費全体の約20%を占めるのが医療材料費です。
医療材料費には、医薬品費や、レントゲンフィルムやガーゼといった診療材料費、聴診器などの医療消耗機器備品費などがあります。
医用材料は、診療を進める上で欠かせないものではありますが、使用期限切れの廃棄や過剰在庫など、改善の余地がある項目です。
医療卸業者と価格交渉をしていない場合は、相場よりも高い価格で購入している場合があり、見直しが必要な項目となります。
人件費
スタッフは経営にとって重要な人的リソースであり、人件費における経費削減をする場合には最も慎重さが求められる項目の1つです。
ただし、医業収益に対する人件費の割合は、50〜60%程度を占めることがほとんどで、工夫次第では経費削減に繋げられる面もあるでしょう。
人件費の内容は、給与、賞与、退職金などがあり、医師や看護師などの専門職の採用試験、人材育成などの教育体制にも、費用がかかります。
電子カルテなどの通信費
通信費は電話代やインターネット、郵送代などを含みます。
電子カルテにおいても、クラウド型はカルテデータをクラウド業者のサーバーに保管しているためインターネットを必要とし、通信費がかかります。
オンプレミス型はローカルネットワークを使用するので、基本はインターネットは不要ですが、初期費用が数百万円と高額で毎月保守費用も必要です。5年ごとに買い替えをしなければならず、長期的にみてもトータルコストはクラウド型に比べてオンプレミス型の方が高くなりがちです。
水道光熱費
医療施設における水道光熱費は、人件費に次いで多い固定費です。
病室などの湿度は法的に定められているわけではありませんが、夏季は25〜27度、冬季は20〜22度を目安に調整するため、絶えず空調を稼働させて最適温度に保つ必要があります。
他にも電力停止ができないMRIやCTなどの機器をもつ医療施設では、昼夜を問わず大量の電力を消費してしまいます。
またお風呂やトイレ、厨房など多くの水場が存在し、水道料も高額になりがちです。
病院・クリニックにおける経費削減のアイデア
病院・クリニック経営でかかる経費は、人件費や医療機器など絶対に削減できないものもあります。
そんな中で経費削減を成功させるためには、これまでの方法を見直して、時には思い切った変更をすることも必要です。
変更すると、最初は高いコストが必要になるかもしれませんが、長期的にみると日々かかる経費を抑えることにつながるものもあります。
電子カルテをクラウド型にする
オンプレミス型の電子カルテは初期費用が数百万円で、毎月保守費用や院内に設置するデータ保存用のサーバーに電気代がかかります。さらに、5年おきにはシステムを買い替える必要があり、初期費用と同等の費用が必要です。このため長期的にみるとコストが高額になる傾向があります。
一方、クラウド型は初期費用が10万円程度、毎月の利用料も数万円です。システム更新やメンテナンスはベンダー側で行われるため、買い替え不要でコストが抑えられるのが特徴です。
パート・アルバイトを雇用する
正職員を多く雇用すると人件費が高くなるので、パートやアルバイトを雇用するのも1つの方法です。
例えば、忙しい時間や曜日を割り出して、そこで限定的に働ける人を募集し勤務してもらいます。そうすることで、暇な時間に多くの正職員が勤務している状況がなくなり、人件費の無駄を削減できるでしょう。
また、人件費の高い医師や看護師が、本来の業務に集中し残業を減らせるよう、看護補助や医療事務を雇用するのも効果的です。
医療材料費の在庫削減
医療材料費の在庫を削減するためには、使用される頻度と医療材料の在庫を定期的にチェックし、適正在庫数を決定する必要があります。
必要以上に在庫が多いと、期限切れで使用できず破棄することになり経費の無駄に繋がります。また、仕入れ価格の確認も重要です。長い間、同じ医療卸業者から仕入れていると、価格交渉が行われず、市場価格よりも高い価格で購入しているケースがあるため、市場価格をチェックし価格交渉をして原価を下げましょう。
水道光熱費・通信費の削減
MRIやCTなどの医療機器は電源を切ることができませんが、不要な電気を消灯したり、使っていないパソコンの電源を落としたりなど、細かい部分で節電することは可能です。
また、多くの人が使用するトイレは、水道料だけでも大きな負担になります。そのため、1〜5割の節水ができる節水器を設置するのも有効です。
また、クラウド型の電子カルテはインターネットが必須で通信費がかかりますが、契約しているプロバイダやプランを見直すのもおすすめの方法になります。
病院・クリニックの経費削減のためのポイント
経営維持のためには、効果的な経費削減を行う必要がありますが、なんでも削減すればよいわけではありません。経営構造や利益構造を把握・分析したうえで取り組む必要があります。
このため、目的や目標、具体的な計画を明確にし、組織的に取り組んでいかなければなりません。
ここからは、経費削減のためのポイントについて解説します。
チームとなって取り組む
経費削減は、院長や経営担当者だけで取り組むことはできません。
経費削減を効果的に進めるには、チームを作り責任者を設置すると効果的でしょう。
責任者を立てることで、経費削減の目的・目標、計画を院内のスタッフに具体的に示すことができ、意識や行動の統一を図れるのです。
また、チームを作り責任者を立てることで、経費削減業務に注力してもらえます。また、計画・実行の責任の所在が明確になるため、担当チームは積極的に業務にあたると考えられます。
当事者意識をもって取り込む
院長や経営担当者にとって、経費削減は経営の重要な課題であり、当事者意識が強いです。しかし、雇用されるスタッフは、それほどの当事者意識がない場合があります。
経費削減の対象が自分のお金ではないため、当事者意識がなくなりがちです。とはいえ、過度な危機意識を煽るのは効果的ではありません。経費削減を目指すことで残業が減ったり、給料のカットを防げたりする、スタッフにとってのメリットを伝えましょう。
まずは現状の経費の状況を洗い出す
経費削減をする場合、やみくもに削減していいわけではありません。無駄なものは何なのか、本当に必要なものは何か、経費削減の余地がどこにあるのかを明確にすることが重要です。
このため、まずは現状の経費の状況を洗い出す必要があります。人件費、医療材料費、通信費、水道光熱費のそれぞれについて、支出分析を行いましょう。
何を、どこから、なんの目的で購入しているのかを分析し洗い出すことで、客観的に経費の無駄な部分を特定できます。
病院・クリニックの経費削減につながった事例
ここまで、病院・クリニックの経費削減のための取り組み方などについて紹介してきました。
全てを取り入れるというわけではなく、規模や経費の現状に合わせて、目標や計画を設定し実行することが大切です。
ここでは、経費削減に成功した病院・クリニックの事例をご紹介します。
約7000万円の経費削減につながった事例
湘南鎌倉総合病院は、病床数660床を超える総合病院で、救急医療、先進医療など、幅広い分野で地域医療に貢献しています。
2014年に、薬の待ち時間のクレーム、薬剤師のマンパワー不足などを背景に、院内処方から院外処方へ切り替え、売上総利益が改善していることを報告しています。また、自院で支出削減ができる項目を抽出して、各部署に責任を持たせて業者との交渉を進め、約7,000万円の経費削減につなげています。
参考:コスト削減の成功例 湘南鎌倉総合病院が報告 | 徳洲会グループ
検査委託の見直しを行ったクリニックの事例
Aクリニックでは、B検査センターに検査委託を行っており、月の委託料金は平均で、50万4000円でした。これまで業務委託の見直しはしておらず、検査の請求書、実施項目などのつき合わせも一度もしていない状況だったのです。
そこで、C検査センターの担当者に、現状(主要診療科目、病床数、検査実施数)を伝え見積もった結果、最初の3年間は現在の委託料の5%で月額2万5200円、5年以降は85%と価格は上がりますが、現行にくらべ大幅な経費削減効果となることがわかりました。
参考:診療所コスト 削減実践法
クラウド型電子カルテなら買い替え不要で経費削減に
電子カルテはITツールの中でも、高いコストが必要なツールです。大きく経費削減をねらう場合は、導入する電子カルテの種類を検討すると良いでしょう。
電子カルテの種類はクラウド型、オンプレミス型の2種類で、クラウド型は耐用年数がなく一度購入すれば、何年たってもソフトウェアの買い替えが不要です。長期的に見て経費を削減できます。
オンプレミス型電子カルテは5年ごとの買い替えが必要
オンプレミス型の電子カルテは、導入時に院内に設置するサーバーや端末、ソフトの購入で500万円程度の初期費用が必要といわれています。
さらに、国税庁によって定められた法定耐用年数の5年を経過するごとに、初期費用と同等の費用をかけて、ソフトや端末を買い替えなければならないのです。
買い替え時期になるまでは、あまり意識することがないですが、5年ごとに500万円程度の大きな出費が必要になると、経営を圧迫する可能性があります。
クラウド型ならバックアップ作業も不要
オンプレミス型の電子カルテの場合は、自院でデータのバックアップ作業を行わなければなりません。
一方、クラウド型の電子カルテは、インターネットを利用して、クラウド業者のサーバーにカルテデータを管理するため、保守管理はサーバーを提供する業者が行ってくれます。
データのバックアップ作業やシステムのバージョンアップの更新も、全て自動で行ってくれるため、手間も省けます。保守管理に人材確保や時間を必要とせず、経費削減につながっていくでしょう。
データのアクセスもしやすい
クラウド型の電子カルテは、ネット上のサーバーにデータを保管しているため、インターネット環境とパソコンなどの端末があれば、どこからでもアクセスできるのが特徴です。
例えば、在宅医療や訪問診療などでも、電子カルテをその場で開くことができ、前回の情報を確認しながら診療に当たれます。さらに、リアルタイムに記録でき効率的です。
また、学会や出張、他院での外勤時にも、自院の患者さんの情報を確認でき、場合によっては指示を出すこともできるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルス感染症などの影響で、厳しい経営状態の医療業界の現状において、経営を維持していくためには、経費削減を成功させることが重要です。
そのためには、目的・目標、計画を明確にして、スタッフ全体で当事者意識を持って取り組めるようにしなければなりません。
そして、達成できた目標や経費削減による成果は、フィードバックすることで、スタッフの経費削減への取り組みのモチベーションアップにつながり、さらなる経費削減意識を高めることも期待できるでしょう。