自由診療クリニックの開業について|手続きや資金について解説

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保険診療と比較し、より患者さんの状態にあわせた治療や診療・施術を提供できる自由診療。

しかし、実際に自由診療クリニックを開業するとなると、「どんな手続きが必要なのか?」「資金はどのくらい必要で、どのように調達するのか?」など、疑問や悩ましいことも多いでしょう。

そこでこの記事では自由診療の特徴をふまえ、開業までの準備や段取り・手続きについて解説しています。

自由診療クリニックの特徴

保険診療では「この疾患にはこの治療」という制限や決まりがあります。

一方、自由診療は日本では保険適用になっていない最先端の治療法や、美容目的の施術を受けることが可能です。

このため自由診療クリニックでは、検査や施術の幅が広がります。より細かな検査を実施し、患者さんの状態に合わせた診療・治療・施術を提供できることが特徴と言えるでしょう。

一方、公的医療保険が使用できないため、治療費は全額(10割)が患者さんの負担となり、必然的に高額になってしまいます。

また、美容目的の施術(シミ取り、脱毛、美容整形、美容歯科など)は自由診療となりますので、美容クリニックでは自由診療のみを扱っていることも多いです。

自由診療クリニックの経営においては、比較的高額である治療や施術が、長期的にみると患者さんにとっては金額以上のメリットがあることを知ってもらうことが重要なポイントとなります。

自由診療クリニックの具体例

自由診療を主に扱うクリニックの具体例として、次のような診療科が挙げられます。

  • 美容外科、美容皮膚科
  • 歯科、矯正歯科、歯科口腔外科
  • 産婦人科(生殖医療)、産科
  • 精神科、心療内科
  • メンズクリニック
  • アンチエイジング

など。

美容外科や美容皮膚科では、日本において未承認だがアメリカ食品医薬品局(FDA)認証の医療機器による施術が行われています。

歯科では矯正やむし歯のレーザー治療など自由診療のみを取り扱い、審美性や強度を重要視したクリニックもあります。

産婦人科においては妊娠出産に関わる医療が自由診療です。一般不妊治療や生殖補助医療については令和4年4月から保険適用となりますが、年齢・回数の要件があります。

自由診療クリニックは儲かるって本当?

令和元年に実施された厚生労働省の調査では、勤務医、開業医の平均年収は以下のようになっています。

  • 勤務医:1,491万円
  • 開業医:2,374万円

参考:第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 - 令和元年 実施

開業医の年収は勤務医に比べて高いことがわかります。経営が安定すれば、高収入を得ることが可能です。

ただし、開業医の場合は経営利益の値が重要です。

例えば、月の売上が4000万円の場合で考えてみましょう。

医療材料の原価、人件費、その他経費に2500万円かかる場合、利益は1500万円です。

開業資金の借入金などの返済が加わると、残る利益はさらに下がります。

これは自由診療クリニックにおいても同様です。儲かるか、儲からないかは経営努力と工夫によって変わります。

自由診療クリニックを開業するときの流れ

独立、事業の継承など、開業の理由は様々です。しかしどんな理由であっても、開業するときに必要な準備やスケジュールは、おおむね決まっています。

ここでは、自由診療クリニックを開業する時の流れについてご紹介いたします。

経営理念やコンセプトを決める

自由診療クリニックを開業する際に最初に取り組むべきは「経営理念やコンセプトを構築」することです。これがなければ開業予定地の決定や事業計画の立案も定まりません。

開業準備を進めていく中で、コンセプトや経営理念が固まっていれば、優劣がつけにくい決断も、経営理念という基準を設けることで判断がしやすく、軸がぶれにくくなるでしょう。

開業予定地を決める

開業する自由診療クリニックの診療科や経営理念・コンセプトにあわせて、土地・物件の選定が必要になります。まずは都心部なのか、郊外なのかは重要な選定要素です。

都心部と郊外では次のようなメリット・デメリットが挙げられます。

都市部

郊外

メリット

・安定した人口で顧客が多い

・利便性がよい

・競合が少ない

・運営コストが低い

(土地、家賃、人件費など)

・利益率が高い

デメリット

・競合が多い

・運営コストが高い

(土地、家賃、人件費など)

・利益率が低い

・人口が停滞あるいは減少し、顧客が少ない

・人材確保が困難

・利便性が悪い

(生活、教育、交通など)

2021年の調査※1では、美容皮膚科や脱毛クリニックの首都圏での開院が増加し、都心での需要の高まりとともに、競合が増えています。

開業しようとする診療科の特徴や、その土地のニーズ、自分にゆかりがあるなど、様々な観点から開業予定地を決定する必要があります。

参考:美容医療市場に関する調査を実施(2021年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

事業計画を立てる

事業計画はクリニックの開業を事業の1つとし、経営成功につなげるためのプランです。

内容は、「経営基本計画」「資金計画」「収支計画」からなります。

経営基本計画は、経営理念や開業場所、経営戦略など、クリニックを開業するにあたっての基盤となる計画です。

資金計画、収支計画は、開業にかかる経費など、お金に関するビジョンや計画を明確にするプランです。

また、開業後の収益や費用、現金収入と支出も、開業直後の運営に重要な資金であり、検討することも忘れてはいけません。

事業計画は、資金調達のために融資を受ける際、重要な役割を果たします。綿密かつ費用に余裕を持った計画立案が必要です。

資金調達をする

クリニックを開業するとなると、かかる費用は高額になりがちです。自己資金100%の開業ができるケースはほとんどないと言えますので、開業には資金調達が必須となります。

資金調達先として代表的なものは次の4つです。

資金調達先

特徴

日本政策金融公庫

中小事業者向けに低金利で融資を行う政府系金融機関。民間と比較し低金利。

制度融資、医師信用組合

地方自治体が信用保証協会と連携している融資方法。低金利・固定金利。

開業地によっては医師信用組合の金融商品の利用も可能。

銀行などの民間金融機関

クリニック開業に特化した金融ローンもある。

交渉によって条件変更が可能で、融通が利く。

親族からの借金

返済金額や期間を自由に決められる。トラブルにならないように書面での記録を残すことが重要。

それぞれで条件が異なるため、事業計画にフィットする融資先を検討しましょう。また、1~2割の自己資金を準備することを、融資の条件として提示される場合もあるので準備が必要です。

各種手続きをする

開業における各種手続きは、書類提出後、受理されるまでに時間がかかることがあります。開業予定日に合わせて計画的に手続きを進めなければなりません。

診療所として診療行為を可能にするためには、管轄の保健所に「診療所開設届」を提出する必要があります。

このほかにも、厚生局や労働基準監督署など、各提出先に届け出なければならない書類が多数あります。

これらは開業を目指す院長が準備して提出しなければならないので、漏れを防ぐためにスケジューリングしておく必要があるでしょう。

なお、ここで解説している手続きは、個人が無床もしくはベッド数19床以下のクリニック開設に該当する内容です。

詳しくは、以下の見出し「自由診療クリニック開業に必要な手続きとは」で解説いたします。

ターゲットに合わせて内装を決める

自由診療の場合、患者さんは医療費の100%をご自身で支払うことになります。

保険診療に比べると高額になってしまいがちです。

このため、サービスの一環や集患の要素としても内装は重要です。

美容外科や心療内科では、患者さん同士が出会うことがないよう、プライベートの空間を重視するなどの配慮が必要です。

また、清潔感や心が落ち着くような空間づくり、パウダールームの充実などは繰り返し利用してもらうためには大切なポイントです。

経営コンセプトや診療科の特徴に合わせ、ターゲットを意識した内装をめざしましょう。

医療機器・人材を準備する

開業にあたっては、診療に必要な医療機器などを選定し、注文をしなければなりません。

特に外科的な治療・施術を伴う、歯科や美容外科、産婦人科などは、医療機器を注文してから届くまでの時間を加味し、開業に間に合うよう計画的に購入しなければなりません。

スタッフの選定は開業後の運営をスムーズに行うためにも重要です。看護師や医療事務などの求人募集掲載は、無料、有料のサービスがあります。無料はハローワークやindeedなどがあげられます。有料であれば分野に特化した求人広告や人材紹介会社などを利用すると良いでしょう。開業する診療科の性質や経営コンセプトと合わせながら、求人掲載を行っていきましょう。

自由診療クリニックの開業に必要な資金

開業資金は次の2種類があります。

  1. 設備資金:開業前の必要資金。建物、内装や医療機器などの初期投資が該当
  2. 運転資金:開業後に発生する。医薬品の仕入れ、家賃、借入金の返済、人件費など

自由診療クリニックを開業する場合、診療科にもよりますが、開業資金は保険診療よりも高額になることがあります。

内科では5,000~8,000万円、心療内科・精神科では1,500~2,500万円。テナントの広さや医療機器も不要なため、心療内科の初期費用は比較的低く抑えられています。

扱う診療がほとんど自由診療である美容外科では、5,000~8,000万円程が必要と言われています。扱う医療機器が高額なため、中には1億円を投資するケースもあるようです。

自由診療クリニック開業に必要な手続きとは

自費診療クリニックを開業するには、各種手続きが必要です。

診療所開設届」や、保険診療も併せて取り扱う場合の「保険医療機関指定申請」など、診療開始するための届け出。そして、労働基準に関わる申請、個人事業に関わる届け出など、経営者、雇用主としての届け出を行わねばなりません。

なお、ここで解説している手続きに関する情報は、個人が無床もしくはベッド数19床以下のクリニック開設に該当する内容です。

開業に必要な主な届出や手続き

開業に必要な届出・手続き、提出先について、一部をまとめました。

提出先

届出

保健所

診療所開設届

診療所X線装置装備届け

麻酔管理者・施設者免許申請書

結核予防法指定医療機関指定申請書

診療所使用許可申請書

厚生局

保険医療機関指定申請書

社会保険に関する事務所

(日本年金機構・全国健康保険協会など)

厚生年金保険の手続き

健康保険(協会けんぽ)の手続き

労働基準監督署

労災保険指定医療機関指定申請書

労働保険の保険関係成立届

税務署

個人事業の開業届出書など

この他にも提出が必要な書類があります。

また、従業員数、診療科目によっても提出すべき内容が異なるため、事前に必要書類を確認して、漏れがないように準備を進めていく必要があります。

保健所に届ける「診療所開設届」は必須

診療所開設届は、自由診療クリニックを開業する管轄の保健所への提出が必要です。これは、診療所として診療行為を可能にする届け出です。

医療法では開業後10日以内に届け出るように定められています。ところが、実際に開業後に提出すると、受理されるまでの間は診療行為ができない状態になってしまいます。このため、一般的には、クリニックの内装が完成したくらいのタイミングで提出すると、スムーズに進めることができるでしょう。

開業届が受理されたのちに行えるのは、自由診療のみ。保険診療を行う場合には、別途「保険医療機関指定申請」を厚生局に申請する必要があります。

保険診療も行うなら「保険医療機関指定申請」

保険診療を併せて行う場合には、厚生局に「保険医療機関指定申請」する必要があります。これは、保健所に提出した「開設届」が受理されたあとでなければ申請できないため、各種手続きのスケジューリングが重要です。

さらに申請は月に1回、受理されるまでには約1月かかります。各厚生局の事務所で、月の提出期限が決められており、受理後の翌月1日付けで指定を受けることになります。

開業予定日から逆算して、手続きの準備を進めなければなりません。

自由診療クリニックを失敗させないポイント

自由診療クリニックを開業する医師には、診療科に関する知識やスキルは必須です。しかし、クリニックを開業し、安定した運営を目指すためには、勤務医時代には意識することがなかった、経営マネジメント、財務や法律に関する知識や行動力も求められます。

開業にあたっては、必要な届出や申請を計画的に行わねばなりません。加えて、運営をスムーズにするための業務効率化、集患のための戦略も経営成功のために必須です。自由診療だからこそ、保険診療にはないクリニックの魅力を伝え、集患をすることも重要です。

届出前に事前相談を必ずする

各種届出や申請の書類は各提出先や担当先に、事前に必ず相談するのがおすすめです。

これは、提出する書類が一度で受理されることがほとんどないからです。

特に開業届については、クリニックの内装を考える時点で、一度相談窓口を訪ねましょう。なぜなら、この相談の時点で、高い確率でクリニック内のレイアウトに関する指摘を受けることがあるからです。。

加えて、クリニックの名称についても注意が必要です。近隣に類似した名称のクリニックがすでに存在すれば、保健所から変更するように依頼されることも。看板やチラシなどができあがった後からの変更では、かけた費用が無駄になってしまいます。事前に相談し、このような事態が起きないようにする必要があります。

効率化ツールは初めに導入しておく

自由診療のクリニックを開業する場合、当初から業務効率化を考えておく必要があります。特にカルテについては、初期投資として電子カルテを導入することも検討するとよいでしょう。クラウド型の電子カルテであれば、初期費用・ランニングコストも抑えることが可能です。

紙カルテは費用がかからないように感じますが、同時に閲覧・記入できない、保管場所の確保が必要になるなどのデメリットもあります。さらに、いざ電子カルテに変更する際には、移行に時間や費用がかかり、スタッフが慣れるまでに時間を要するなど、非効率的です。

電子カルテと合わせて予約システムを導入することによって、インターネットで患者自身が予約できるようになります。予約の電話対応、予約管理の手間も減らすことができ、業務効率化できます。

集患のための対策も必要

インターネットの普及により、患者さんはWEBサイトやSNSから情報収集を積極的に行っています。自由診療クリニックの経営においては、それぞれのツールの特性を理解して集患に活用すると効果的でしょう。

SNSは双方向のコミュニケーションです。SNSでの配信に対しては、反応があると考えて利用しましょう。SNSを通しての質問やクレームなどに誠実に対応することで、集患につなげることができます。

対応が困難な場合は「SNSは利用しない」という選択も必要です。

WEBサイトでの集患も効果的です。広告については、「医療広告ガイドライン※2」を順守することが前提となります。抵触しないように注意しながら、クリニックの魅力を最大限伝えていきましょう。

参考:医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)

まとめ

この記事では、自由診療クリニックの特徴を踏まえ、開業の手続きや資金について解説してきました。

クリニック開業にあたっては、開業までのスケジュールを綿密に立てることが重要です。特に届出については、限られた提出期限や受理までの時間などに注意が必要です。さらに、これらの開業スケジュールと同時に、スタッフの募集や選定、クリニック内の内装デザイン、医療機器・必要物品の準備も行わねばなりません。

医師としてのスキルだけでなく、経営者としての手腕が求められます。場合によってはコンサルタントを利用することも有効な手段でしょう。

開業までの準備は大変ですが、自由診療ならではの患者さんの要望に沿った細やかな診療を行えるクリニックを成功させる、大きな第一歩となるでしょう。