紙カルテのスキャン方法は?流れや注意点を解説

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長く診療を続けているクリニックでは、積み重なった紙カルテの保管スペース確保に頭を抱えている場合もあるでしょう。

紙カルテの保管スペース確保の問題を解消するためには、紙カルテをスキャンし電子化するのが有効な方法の1つです。

そこでこの記事では、紙カルテのスキャン方法の流れや、注意点について解説しています。

紙カルテのスキャン作業を行うメリット

紙カルテで運用していると、膨大な数からカルテを探したり、紙カルテの保管場所の確保に悩んだりといった課題のあるクリニックも多いはずです。

紙カルテをスキャンすることで、紙カルテが今後増えることを防ぐことができますし、今までの紙カルテもスキャンし、パソコン等で見られるようにすることで、情報共有も容易になります。

ここでは、紙カルテのスキャン作業を行うメリットについてを、詳しく解説していきます。

カルテを探す時間が省け、効率化につながる

紙カルテの場合、患者さんの来院時にカルテ棚や保管庫から対象の該当カルテを探す必要があります。しかも紙カルテを診察室に運び、終了後には保管場所に収納するといった手間もかかってくるでしょう。

紙カルテのデータをスキャンして電子化しておけば、パソコンで簡単にデータ検索が可能で、カルテを探す時間が大幅に省け、業務効率化につながります。

しかも、そのデータにアクセスできるパソコンがあればどこでも情報共有でき、運んだり収納したりといった手間もなくなるのです。

電子カルテと連携し、患者情報の共有が容易になる

カルテは1人の患者さんに1部しかありません。このため紙カルテの場合は1人のスタッフがカルテを使用している間、他の人はカルテの閲覧・記録などの作業をすすめることができず、患者情報の共有にも時間を要します。

データをスキャンして電子カルテを連携することで、カルテにアクセスできるパソコンがあれば、複数のスタッフが同時に情報を共有でき、患者情報の共有がスムーズになります。患者さんへの診療やケアに即座に対応できるでしょう。

カルテを保管するスペースが不要になる

診療録の保管期限は、医療法と保険医療機関及び保険医療養担当規則により、「診療が完結した日から5年間」と定められています。

数年来院がない患者さんのカルテも保管しておく必要があり、保管スペースを確保しなければなりません。

紙カルテをスキャンして電子化したデータは、厚生労働省のガイドラインに従って処理することで、元の紙カルテと同様の原本性を保持できます。

そのため、スキャンした後の紙カルテは破棄することができ、保管スペースが不要になります。

バックアップを取れるためBCP対策になる

BCP(Business Continuity Plan)対策とは、災害などの緊急事態が生じたときに、被害・損害を最小限にして、医療の継続や復旧を図るための計画をさします。

紙カルテの場合は、災害で浸水・流失してしまう可能性がありますが、電子データであれば、クラウドなどに保存することでバックアップを取っておくことが可能です。

災害時に即座にデータ復旧の対応ができ、通常通りの診療を行うことができます。

紙カルテをスキャンする方法

紙カルテをスキャンする方法は、主に2つの方法があります。

  • 自院で行う
  • 専門業者に依頼する

スキャンすべきカルテの数や、日々のスタッフの業務量、ITリテラシーに強いスタッフがいるかどうかによっても、どの方法を選択すべきか変わります。

自院で行う

まずは自院のスタッフで、係を決めてスキャンをすすめる方法があります。

専門業者への外注に比べ、大幅にコストを削減できることがメリットです。

重要な個人情報を含んだカルテを扱うので、自院内で作業し完結させるのは理想的な方法といえます。

ただし、スタッフは他の業務と掛け持ちになるため、全てをスキャンする場合には長い期間が必要になってしまいます。

専門業者に依頼する

自院で作業をする余裕がない、スピードを重視したいという場合には、専門業者にスキャンを依頼する方法があります。

コストがかかるのが難点ですが、電子署名を実施し、高解像度でのスキャン技術で見やすい電子データで保存することが可能です。

ただし院外にカルテが持ち出されるので、保人情報の取り扱いや保護について厳重な管理体制が求められます。プライバシーマークを取得している業者か、過去の実績はどうかなどチェックしてから依頼しましょう。

紙カルテをスキャンするときに注意すべき点

紙カルテをスキャンする時には、ただスキャンしてPDF化すればよいわけではありません。厚生労働省定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」に沿って進める必要があります。

また、カルテの情報は個人情報や診療・治療に関連する重要な情報が保管されています。個人情報の保護について、高い意識を持って作業をすすめなければなりません。

ガイドラインに沿って行う

紙カルテのスキャンについては、厚生労働省の定めるガイドラインに従いながら、適切な方法ですすめなければなりません。

主に、「診療のたびにスキャナで電子化して保存する場合」と「蓄積した過去の紙カルテをスキャナで電子化して保存する場合」の2つを想定して取り扱いを定めています。

都度の保存では、原則1日以内に保存が必要になり、過去のカルテのスキャンについては、実施計画書の作成や外部監査人などによる監査が義務付けられています。

参考:厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版

厚生労働省の定めるガイドラインについて

1999年に通知された「診療録等の電子媒体による保存について」で真正性、見読性、保存性を満たせば、診療録の電子保存が認められました。しかし、作成段階から電子的に行われた場合に限定されており、紙カルテのスキャンは真正性が確保されないという理由で認められませんでした。

2005年のe-文書法に伴い、紙文書の電子保存が一定要件下で可能となり、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」で紙カルテの電子保存の指針が示されたのです。

スキャンしたデータに情報を付与し管理する

スキャンしたカルテデータを閲覧するときに、保管場所からスムーズに探せるようにしておくと見たいデータを検索しやすく、探す時間を大幅にカットできます。

具体的には、以下の情報をスキャンしたカルテデータのファイル名に入れておくと良いでしょう。

  • 患者番号
  • 診療録の期間(該当する診療期間)
  • 診療録の種類(1号紙、2号紙、検査など)

これら以外にも、自院で付与するデータを決めて、より管理しやすいように運用をすることもできます。

管理がしやすいシステムを構築する

スキャンしたデータは管理方法を工夫しなければ、データを探しに時間がかかったり、複数のフォルダが存在して管理しにくくなったりと、紙カルテとあまり変わらない状況になってしまいます。そのため、管理しやすいシステム構築をすることが大切です。

例えば、電子カルテと紐付ければ、患者さんの電子カルテからスキャンデータをすぐに閲覧できます。

Excelで管理すればシートごとに分類でき、フィルター機能を使えば検索も簡単です。

スキャンの実施記録を残す

自院でスキャンする場合、2つの理由からスキャンの実施記録を残す必要があります。

1つは、厚生労働省のガイドラインに定められている実施計画書の制作が必要だからです。

もう1つは、実施記録を残すことでスキャン漏れや抜けを防ぐためで、次のような内容を記録する必要があります。

  • スキャン実施日・時間
  • スキャン実施者のサイン
  • スキャンしたカルテの患者番号
  • 1人の患者のカルテをどこまで(何枚)スキャンしたか
  • スキャンした画面を目視でチェックしたか

紙カルテをスキャンする場合に必要な機材

自院で紙カルテをスキャンする場合は、必要な機材をそろえる必要があります。

主に必要なものは、裁断機、スキャナ、パソコンです。

スキャナは、ガイドラインの定めに準じる必要があるため事前に調べておく必要があります。

自院で所持しているスキャナが使えるかどうかの判断が必要です。データ量によってはパソコンも新たな準備をしなければなりません。

裁断機

紙カルテを冊子のように糊付けして綴じている場合は、スキャナに通せるように細断して、1枚1枚をバラバラにする必要があります。カルテに厚みがある場合は、ギロチン式の裁断機が良いでしょう。ギロチン式は裁断可能な目安枚数が数枚から数百枚と幅があるため、カルテの枚数に合ったものを準備することが大切です。

薄いカルテであれば、押し切り式・スライドカッター式でも構いません。リングファイルで保管している場合には、裁断機の準備は不要です。

スキャナ

機材選びの中でも、特にスキャナ選びは注意が必要になります。

医療の業務において支障が出ることがないよう、スキャンによる情報量の低下を防ぐ必要があるためです。ただしガイドラインの第5版においては、一般的に安価なスキャナでも一定の性能を持つものが大半を占めているため、スキャンの精度について画一的な基準は定められていません。基準の目安は、ガイドライン第3版で定められている、300dpi、RGB各8ビット以上となるので、参考にしましょう。

参考:「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 5.2版」 に関するQ&A 

パソコン

スキャナを接続しデータ保存をするのに、見合ったパソコンを準備する必要があります。

あらかじめ紙カルテのデータ量を概ね算出し、パソコンのハードディスク容量を計算して用意するのがおすすめです。

A4/300dpi/8bitグレースケールpdfであれば、容量は500KB/ページが目安とされています。

1患者分が20ページ分で、全患者3万人であってもデータ量は300,000MB(300GB)なので、1TB搭載のパソコンであればデータ用は賄えるでしょう。

自院で紙カルテをスキャンする場合の流れ

自院で紙カルテをスキャンする場合、事前に次のような作業の流れを計画立てると、よりスムーズに作業が進むでしょう。

  1. カルテの背表紙を細断
  2. カルテの状態確認
  3. 枚数を数え、メモ
  4. スキャン
  5. スキャンデータを目視で確認
  6. ファイルに名前を付ける
  7. スキャン実施記録を記載

リングファイルの使用であれば、カルテの背表紙を細断する必要はありません。

スキャナは表面のみをデータ化するため、検査用紙などが貼られていないかなどの確認が必須です。また、紙折れなどがあるとスキャンに時間がかかってしまうので、状態良く紙カルテを保管しておくことが大切になるでしょう。

紙カルテをスキャンする際のよくある質問

紙カルテのスキャンに関してはガイドラインに沿って進めていく必要があります。

ですが、実際にスキャンすることを決めると、細かい部分で不明な点が出てきます。

厚生労働省は、ガイドラインに関するQ&Aを準備しているので、参考にするとよいでしょう。

ここではいくつかのよくある質問と回答をご紹介します。

スキャンした後の紙カルテの保存義務はありますか?

スキャンしたデータに、電子署名とタイムスタンプを付与することで、元の紙カルテと同等の原本性を保持させることができます。そして、電子化したデータを保存義務の対象にすれば、元の紙カルテは破棄しても問題ありません。

ただし、電子化したものと元の紙カルテを同時に保管しておくことは、真正性・保存性として極めて有効で、厚生労働省は破棄を義務付けていません。

つまり、保管できるのであれば、破棄せず保管するのが望ましいという事です。

参考:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 5.2版」に関するQ&A

タイムスタンプはパソコンの時間と同じで良いのですか?

ある時刻にその電子データが存在していたこと、その時間以降改ざんされていないことを証明する技術です。

スキャンして電子データとして保存する際、タイムスタンプは電子署名を含む、文書全体の真正性を担保するために必要なものになります。

ガイドラインでは、「時刻認証業務の認定に関する規程」に基づき認定された事業者が認定するタイムスタンプを利用することを求めているため、タイムスタンプの時間がパソコンの時間と同じとは限りません。

参考:総務省 タイムスタンプについて

掲示以外の周知方法はどのようなものがありますか?

紙カルテをスキャンして電子化する場合、患者さんに周知することがガイドラインに定められています。院内への掲示での周知方法以外には、パンプレットの配布、問診表への記載がありますが、医師・看護師・医療事務などからの口頭説明は、より丁寧で患者さんに伝わりやすい効果的な方法です。また、インターネットを活用し自院のホームページでの情報発信をうまく活用すると良いでしょう。

異議の申し立てがあった場合、電子化は行えないので、注意が必要です。

参考:厚生労働省 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 5.2版」に関するQ&A

まとめ

紙カルテをスキャンすると、情報共有がスムーズになり業務効率化を図れます。

また、増える紙カルテの保管スペースの確保が不要になることもメリットの1つです。

紙カルテをスキャンする場合、自院で行えば、コストは削減できますが、手間や時間がかかってしまいます。一方外注すると、コストは高いですが、スピーディーかつ正確にスキャン可能です。自院の経営や診療の状況を考慮し、どの方法で紙カルテの電子化を進めるか決めていきましょう。