電子カルテデータの二次利用について|課題や法律を解説
近年、電子カルテを導入する医療機関が増加中です。厚生労働省の調査によると、2020年には病院で57.2%、診療所で49.9%まで電子カルテの導入が進んでおり、特に400床以上の病院では91.2%の普及率となっています。
出典:電子カルテシステム等の普及状況の推移(厚生労働省)
電子カルテには、個人の健康状態や治療歴、薬歴など多くのデータが蓄積されており、そのデータを診療以外の目的で利用しようという二次利用が注目されています。
この記事では、電子カルテデータの二次利用について知りたい方に向けて
- そもそも二次利用とはどういった目的のことを指すのか
- 二次利用することで得られるメリット
- 二次利用する際の課題
について解説します。
目次
電子カルテデータの二次利用に関する「医療ビッグデータ法」とは
医療ビッグデータ法(次世代医療基盤法)とは、医療機関に日々蓄積される医療情報をより質の高い医療の提供や、医学の発展につながる研究に用いるためなどを目的として制定された法律です。
医療情報は極めてプライバシー性が高く重要な個人情報なので、個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされています。患者本人の同意がなければ医療機関外に持ち出すことができないため、医療情報を活用するには大きなハードルがありました。
医療ビックデータ法は、医療情報をそのまま提供するのではなく、大臣認定を受けた事業者が匿名加工することがポイントです。匿名化することでセキュリティやプライバシー侵害といった問題が解消され、大学や研究機関、製薬会社などに医療情報を提供するバードルを下げることができます。
患者本人が情報提供をいつでも拒否することができるため、患者の権利も保障されます。
電子カルテデータの二次利用とは?
電子カルテのデータ利用には大きくわけて「一次利用」と「二次利用」があります。
一次利用 |
二次利用 |
|
目的 |
診療や治療のため |
医学研究や開発、薬剤の副作用調査など |
利用する機関 |
医療機関 |
大学、研究機関、製薬会社、行政機関など |
個人情報 |
そのままで利用 |
匿名化された医療情報を利用 |
一次利用とは、患者本人の診療や治療など取得した情報を本来の目的のために利用することをいいます。医療情報を患者本人のために利用するという観点から、地域医療情報ネットワークなどにおける情報共有も一次利用に含まれます。
二次利用とは、取得した医療情報を診療以外の目的で利用することです。具体的にいうと、大学や研究機関での研究利用、製薬会社や医療機器メーカーによる開発での利用、行政の政策利用などがあります。
一次利用・二次利用のどちらの場合でも、医療情報の利用には患者の同意が必要です。
一次利用については、患者が医療機関を受診した時点で同意したとみなす考えが一般的。二次利用は患者の同意を得ることが前提ですが、「医療ビッグデータ法」の制定により医療情報を匿名化することで第三者に提供できるようになっています。
電子カルテデータを二次利用することのメリット
電子カルテの普及や医療ビッグデータ法の制定により、電子カルテデータの提供へのハードルが下がり二次利用を促進する流れができつつあります。
電子カルテデータの二次利用には、より質の高い医療の提供や新たな治療法の確立など多くの可能性が期待されています。ここでは、電子カルテデータを二次利用することのメリットについて詳しく解説します。
医学研究の進歩や発展につながる
電子カルテには、患者が医療機関を受診した際の問診情報や検査結果、薬剤データなど医療情報が蓄積されています。同じ病気でも患者によって治療法のどの薬を使用するかは変わってきますので、大量の患者データの二次利用によって、患者ごとに最適な治療法を提供できる可能性が高まります。
そのほかにも、大量の医用画像を解析して早期発見につながるような診断支援のソフトウェアの開発をしたり、医薬品の副作用の発生要因の把握が容易になることで医薬品の安全性が向上したりと、医学の進歩と発展に大いに役立ちます。
病院のマネジメントに役立つ
電子カルテ内の情報を活用して自施設の経営改善や診療機能の向上といったマネジメントにも役立てることができます。
電子カルテデータの二次利用がマネジメントに役立つ例として次のようなことがあります。
- 診察料や医療機器の使用率によって効率的な経営ができているかの分析
- 患者の症状、アレルギーの有無、処方履歴などからの薬剤の適正チェック
- 患者数の増減、初診や再診の割合から患者動向を把握する
- 患者の年齢、性別の分析からターゲット層の把握
電子カルテデータを二次利用することで経営分析が容易になり、無駄なコストを削減したり業務の効率化につながります。データの二次利用を積極的に活用できている医療機関は多くはないですが、これからの病院経営においては非常に重要です。
電子カルテデータの二次利用の課題
電子カルテデータの二次利用は、これからの医療の進歩や発展にかかせないものであり、多くの可能性やメリットが期待されていますが課題も残されています。さらに二次利用の推進をしていくためには、課題を解決していくことが重要になります。
電子カルテデータの二次利用の課題は次のようなことがあります。
- 個人情報保護
- 電子カルテのシステム構成
- 医療情報を利用されることへの抵抗感
これらの課題について詳しく解説していきます。
個人情報の保護が大切
電子カルテデータを二次利用するうえで、重要になってくるのが個人情報保護についてです。医療情報はプライバシー性が高く、漏えいや悪用される危険もあるため強固なセキュリティーを構築することが大切です。
医療ビッグデータ法の制定により、厳しい基準をクリアした事業者が医療情報を匿名化することで、個人情報を保護しながら第三者に医療情報を提供することができるようになっています。
近年は、医療情報を匿名化することで失われる有用性もあるため、個人情報保護とのバランスを考えながら、いかに有用な情報を二次利用できるかという観点からの検討も進められています。
現状の電子カルテのシステム構成では二次利用が難しい
二次利用するには電子カルテにデータが蓄積されていればよいというわけではありません。
医療情報には標準化されていないデータも多く存在します。データを活用するためには、誰もが理解できるように標準化してルールを決める必要があります。
また電子カルテはさまざまな企業から販売されており、フォーマットが異なるため互換性がよくありません。そのため二次利用するためには、新たにプラットフォームを用意したり、データを加工する必要があり、かなりのコストがかかってくることも問題です。
二次利用されることに抵抗を感じる人もいる
医療情報を提供するのに、自身の診療や治療に関係するならば容認する声が多いものの、自身と関わりが低い医学研究などに二次利用することには抵抗を感じる人もいます。
患者から医療情報の提供を拒否することもできるが、拒否する人が多くなれば二次利用される情報も減っていくため有用性が薄れてしまいます。
電子カルテデータの二次利用は、今後の医療の向上に必要なものであるため、個人情報保護やセキュリティー対策の徹底などをしたうえで、抵抗を感じている人達にむけて丁寧に説明していくことが重要です。
まとめ
近年は電子カルテの普及も進み、蓄積されたデータを医学研究や病院のマネジメントに活用していく二次利用が推進されています。
電子カルテデータの二次利用は、医療のさらなる進歩と発展のためには欠かせない要素であると同時に、個人情報保護やシステムの標準化などかかえている課題も多くあります。
電子カルテデータの二次利用は今後ますます促進されていくと思われますので、動向をチェックして活用していけるように準備しておきましょう。