紙カルテから電子カルテに移行するメリットや注意点
日本では厚生労働省の指導の下、医療機関などの間で情報共有を円滑にする目的で、電子カルテの普及を推進しています。
このような社会の流れや、自院の業務改善のために紙カルテから電子カルテに移行を検討しているクリニックもあるでしょう。
そこで今回は、紙カルテから電子カルテへの移行におけるメリットや注意点についてご紹介します。
目次
紙カルテから電子カルテに移行する前に確認したいこと
紙カルテから電子カルテへの移行する前には、次の2点の確認が重要です。
- 電子カルテを導入することで解決したい課題の明確化
- スタッフの協力を得られるか
自院の課題を洗い出すことで、課題解決に適した電子カルテシステムの選定を行えます。
そして、電子カルテはスタッフ全員で運用していくものなので、スムーズな運用にはスタッフの協力が欠かせません。
ここでは上記2点のポイントについて具体的に解説します。
電子カルテに移行し、どんな課題を解決したいかを明確にする
電子カルテへの移行作業や運用をスムーズに行うためには、電子カルテを導入することで解決したい課題を明確にすることが大切です。
考えられる主な課題は、以下のような内容が挙げられるでしょう。
- 受付、カルテ記録などの業務が煩雑
- 患者の待ち時間が長い
- カルテに記載された字が読みにくい
- カルテ管理のスペースが不足してきた
など。
また、ぞれぞれのクリニック・診療所の扱う診療や治療の特色によって、さらに細かい課題を抽出できるでしょう。
課題を明確化することで、自院にフィットする機能を搭載した電子カルテの選定に役立てられます。
スタッフの協力が得られるかどうか
電子カルテを実際に使用するのは、医療機関で働く医師や看護師、医療事務などのスタッフです。
電子カルテの運用を成功させるためには、スタッフの協力が欠かせないため、電子カルテを導入する目的をしっかりと伝えることが大切です。
電子カルテへの移行の一般的なメリットとして、業務の効率化や利便性などが挙げられますが、自院特有の課題についても細かく説明することがポイントです。
スタッフ自身が日頃の業務で感じている困りごとや問題意識を共有していれば、電子カルテを導入することへの共感と協力を得られるでしょう。
紙カルテのデメリット
紙カルテには、コストの安さや災害時・緊急時に強いというメリットがあります。
しかし一方で、業務においてデメリットも避けられません。
代表的なのは、次の3つです。
- 共有に時間や手間がかかる
- 保存場所が必要になる
- 読みづらい・判別に時間がかかる
これらのデメリットは、業務のパフォーマンスが下がってしまう要因の1つです。
電子カルテ移行の検討時、課題の明確化の参考にできるでしょう。
共有に時間や手間がかかる
患者さんの来院時の紙カルテの動きや流れを見ると、手間がかかることが分かります。
- カルテ棚から該当カルテを探す
- 診察室に運ぶ
- 診察終了後に回収する
- 事務処理
- 保管庫に収納する
これらの動作に、スタッフの時間を割かなければなりません。
また、紙カルテは患者さん一人に対して1つであり、誰か一人が記録したり、閲覧したりするとほかのスタッフは使用できません。
そのため、患者さんの情報共有には時間がかかってしまいます。
それらに加えて、リアルタイムでの情報共有も困難であり、場合によっては重複した情報収集などが生じ、患者さんへの負担につながることもあります。
保存場所が必要になる
クリニックや診療所の経営が長くなればなるほど、患者さんは増えていき、それと同時にカルテも増加していきます。
さらに、日本においてはカルテの保管期間が法律で規定されており、医師法第24条第2項では、診療録(カルテ)の保管期間は5年間です。
また、この5年間は「診療が完結した日から」と定められています。
現在、来院のない患者さんのカルテも保管する必要があるので、診療期間の長い医療機関ほど、カルテの保管場所の確保が必要になります。
規模の小さいクリニックや診療所では、院内のスペースにも限りがあるので、このような保管場所の確保は、紙カルテ運用時の課題の1つになります。
参考:保険医療機関及び保険医療養担当規則 | e-Gov法令検索
読みづらい・判別に時間がかかる
紙カルテは、記録する医師によっては字が読みづらく、判別に時間がかかってしまうことがあります。
医師は診察時、限られた時間のなかで適切に記録しなければなりませんが、来院患者さんが多い場合は記録に使える時間がますます少なくなります。そのため、「字が読みづらい」や「判断に時間がかかる」という状況が起きてしまいがちです。
読みにくさは、読み間違いを起こし、医療ミスにつながる可能性も否定できません。
改善すべき優先度の高い課題といえるでしょう。
紙カルテから電子カルテに移行するメリット
紙カルテから電子カルテに移行する場合、次のようなメリットがあげられます。
- 情報共有の迅速化
- ミスの防止
- 書類作成の時間短縮
- 収納場所に困らなくなる
電子カルテの機能を十分に理解してメリットを活用することで、紙カルテのデメリット改善につなげられます。
その結果、業務効率化につながり、自院の課題を解決する対策にも効果的です。
ここからは移行するメリットについて詳しく解説していきます。
情報共有の迅速化が可能
電子カルテと紙カルテの特徴の大きな違いは、スタッフ間で患者さんの情報共有が迅速かつ容易に行えるようになることです。
電子カルテは閲覧できるパソコンやタブレット端末などがあれば、場所や時間を問わず情報共有や閲覧、記録を行えます。
これによって、リアルタイムで患者さんの情報を確認でき、新しい情報も迅速に共有することが可能です。
また、「手元にカルテがないから業務が進まない」などの状況が起こることはなく、事務処理などもスピーディーに進みます。
その結果、患者さんの待ち時間の短縮につなげることも可能でしょう。
ミスの防止になる
紙カルテのデメリットの1つに、記録者による文字の読みにくさがあげられますが、それに加えて記載ミスなどのヒューマンエラーが生じることもあり、結果として、医療安全上の問題につながりかねない課題がありました。
しかし、電子カルテに移行すれば、記録はデジタルでの入力となり、基本的に手書きはないため、読みにくさによるミスの防止につながるでしょう。
また、診療計画や医師からの指示内容、実施内容、投薬などの項目がそれぞれ混合しないよう、分かりやすく表示されます。
医療における重要な内容の入力ミスや見間違いの予防につながります。
書類作成の時間短縮になる
診断書や他院への紹介状などの各種書類作成は、紙カルテの場合、手書きで作成しなければなりません。
対象の患者さんの紙カルテを確認しながら間違いのないよう転記し、必要な情報を漏れなく記載する必要があります。
電子カルテには、診断書や紹介状など、各種書類のテンプレートが準備されています。
電子カルテ内の情報をそのまま転記することができ、基本情報もそのまま活用できます。
この機能によって記入ミスを防げるうえ、医師による書類作成の時間を大幅に短縮できます。
患者さんのもとにも、書類が早くに届けられるのもメリットの1つです。
収納場所に困らなくなる
診療が長ければ長いほど患者さんが増えますが、紙カルテの運用では、5年間の保管義務があるため、収納場所の確保が課題となっています。
一方、電子カルテの場合は入力した情報をサーバーに保存するため、紙カルテのように物理的な保管スペースが必要ありません。
また、紙カルテでは患者さんの来院時に、収納場所や保管棚からカルテを探す作業が必要です。
電子カルテは患者さんの名前を検索するだけで簡単にカルテにたどり着けます。
カルテを探す手間が省け、カルテを保管していたスペースを別の目的で有効活用できるでしょう。
紙カルテから電子カルテに移行する際の注意点
紙カルテから電子カルテへの移行をすると利便性が高く業務の効率化を図れます。
しかし、移行するためには時間や手間がかかってしまい、綿密な準備が必要になります。
移行時の注意点は次の4つです。
- 移行方法を決めておく
- 自院に合った電子カルテ選定が必要
- 導入時期を決める
- 新しくクリニックのルールを決める
ここからは、これら4つについて深堀りしていきます。
移行方法を決めておく
電子カルテへの移行方法は大きく4つあります。
データコンバート
使用しているレセプトコンピュータの患者属性情報を出力し、新しく導入する電子カルテシステムに取り込む方法です。
事前入力
電子カルテの稼働開始前に、紙カルテのデータを入力しておきます。
「過去3か月以内に来院がある」など、対象患者を絞ることで業務の負担が減るでしょう。
PDFファイル
紙カルテをスキャナでPDF化し取り込む方法です。
全ての患者さん分を取り込むと膨大になるため、対象患者を絞ると良いでしょう。
併用運用
これまでの分は紙カルテの情報を参照し、電子カルテ稼働後からの情報は電子カルテ内への入力を行います。
電子カルテへの移行時は、これら4つの方法の、どれで移行をするかを決めておく必要があります。
自院に合った電子カルテ選定が必要
電子カルテには2つのタイプがあり、オンプレミス型とクラウド型があります。
オンプレミス型は、院内にサーバーを設置し、カルテのデータを管理します。サーバー代などがかかるため、初期費用は500万円前後が必要です。
クラウド型は、インターネットを通じてクラウド業者のサーバーにカルテデータが保管されます。
オンプレミス型に比べて初期費用や維持費がかからないため、クリニックや診療所に向けの電子カルテです。
また、メーカーによって自由診療に特化したものや診療科にフォーカスしたものなど、特徴が異なります。
自院の業務上の課題や診療の特徴で、フィットする電子カルテの選定をする必要があるでしょう。
導入時期を見極める
電子カルテの導入には少なからず時間や手間がかかります。
通常業務と同時進行で、電子カルテの稼働を行わなければなりません。
そのため、患者さんの少ない閑散期に実施するなど、導入時期の見極めが大切です。
また、退職や転職の多い時期の導入は避けたほうが良いでしょう。
人員の不足や新入社員への教育業務などにより、スムーズに電子カルテの運用が進まない可能性があります。
職員の教育が落ち着き、人員が多い時期にスケジューリングすることも、電子カルテ運用を成功させるためのポイントです。
新しくクリニックのルールを決めておく
電子カルテを実際に稼働すると、紙カルテではなかった準備や管理が必要になります。
電子カルテはパソコンを使用するので、診察開始時間までにパソコンを起動させる必要があります。
インターネットへの接続チェックやシステムの立ち上げ、ログインなども行わなければなりません。
一見、当たり前の準備のように思えますが、準備が遅れてしまえば診察開始を遅らせることになり、患者さんに迷惑をかける可能性もあります。
これらを防ぐため、クリニック内でルールを決めスタッフ間で共有や実行する必要があります。
移行した後の紙カルテはどうする?
スキャンした紙カルテのデータは、厚生労働省のガイドラインに従って、電子署名やタイムスタンプを付与することで、元の紙カルテと同等の原本性を保持できます。
そのため、スキャン後の紙カルテは破棄可能です。
ただし、紙カルテには患者さんの個人情報が含まれているため、慎重に破棄を進めなければなりません。
一般的には、機密文書処理の専門業者に依頼するのがほとんどであり、個人情報が記載された大量の紙カルテを院外に持ち出すことになるため、信頼できる専門業者を選択する必要があるでしょう。
電子署名やタイムスタンプを付与しなくても、紙のカルテを原本として倉庫に保管しておけば、スキャンした紙カルテを確認しながら新しい情報を電子カルテに記入するという方法でも運用が可能です。
参考:厚生労働省「医療情報システム安全管理に関するガイドライン第5.2版」
電子カルテの併用も可能
電子カルテと紙カルテは併用をすることも可能です。
再診の患者さんのデータは紙カルテで運用し、新規患者さんから電子カルテ、などのように併用することで、移行の手間を省き、紙カルテが増えることを抑えることができます。
また、医師ごとに方針が異なる場合や、パソコンの操作が苦手なため、患者さんの診療に支障をきたしてしまう場合に、電子カルテと紙カルテの併用を行う可能性があります。
紙カルテで記載をし、あとから電子カルテに移行させる、または事務職員に記入をしてもらい、医師が最終承認ボタンを押すことでログ(システム上の履歴)を残し、記録の責任の所在を明確にするようにするなど、併用の方法はさまざまですので、自社の環境に合わせて併用をする場合には、電子カルテベンダーに相談してみましょう。
自由診療の電子カルテならMEDIBASE
今回の記事では、紙カルテから電子カルテの移行について、メリットや注意点をご紹介しました。
電子カルテの選定を丁寧に行うことで、システム導入をスムーズに行えます。
自由診療に特化したクラウド型の電子カルテ「MEDIBASE」では、操作・運用・費用・開業に関する疑問に答えながら、システム導入をサポートいたします。
契約後には、患者登録や記録、会計や設定などの一通りの操作方法について、説明も行います。
電子カルテ導入をご検討の場合は、ぜひフォームよりお問い合わせください。