電子カルテの代行入力は法律上可能?医師事務作業補助者の業務について

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現在、医師の長時間労働や休日確保が困難な状況が問題視されています。特にカルテ業務関連の時間がその原因の1つになっているのです。

この問題を軽減するための方法として、医師事務作用補助者による電子カルテの代行入力があります。医師の代わりに診察の記録や診断書などの文書作成を代行しますが、法律上は可能なのかと気になることが多いでしょう。

この記事では、医師事務作用補助者の業務範囲、禁止業務などについて詳しく解説しています。

クリニックの医師はカルテ業務の負担に悩まされている

2024年4月から開始される予定の「医師の働き方改革」。医師の労働時間を中心に、医師の働き方の適正化に向けた取り組みが実施される予定です。この背景には、医師の長時間労働や休日確保が困難な状態が常態化していることがあります。

実際に、神奈川県保健医協会の開業医を対象にした調査では、実診療は週40時間超が2割、診療関連・経営労働が加わると週60時間超が25.2%にもなっているのです。これは、患者情報の照会や保険請求業務など、カルテ業務関連の時間が原因の1つとなっていることがわかっています。

時間外労働の要因は「診断書やカルテなどの書類作成」

厚生労働省の過労死をめぐる調査と分析においては、医療の分野では時間外労働が発生する理由として、診断書・カルテなどの書類作成があげられています。調査に答えた医師の57.1%に該当し、半数以上を占めているのです。

神奈川県保健医協会の調査でも診療関連の労働時間が、時間外労働の要因の1つであることを示しており、カルテ業務はクリニックの医師の負担になっていることが推察されます。時間外労働を削減につなげるためには、医師のカルテ業務の軽減は必須ともいえるでしょう。

電子カルテの導入と医師事務作業補助者の配置も進んでいる

書類作成が医師の業務負担を大きくしている中で、電子カルテの導入を検討・実施している医療機関もあります。紙カルテを使っている場合は、手書きになるため診療の記録や各種書類作成時、多大な時間を要してしまうためです。電子カルテを導入することで、リアルタイムに診療記録が可能になります。さらに診断書などの書類作成時にもデータを再利用でき、テンプレートなども準備されているので、時間短縮を図れます。

そしてもう1つ、医師のカルテ業務を軽減させるための対策として、医師事務作業補助者の配置が進んでいます。

電子カルテを代行入力できる「医師事務作業補助者」とは

2008年の診療報酬改定で「医師事務作業補助体制加算」が策定され、「医師事務作業補助者」が誕生しました。

加算届け出の対象になっており、業務内容は施設基準によって定められています。

医師事務作用補助業務を行うにあたり、資格などは必要とされていませんが、厚生労働省が定める32時間以上の基礎研修、入職後6カ月はOJT研修期間などが求められています。

現在、2024年開始予定の「医師の働き方改革」の推進に向け、安定して医師事務作業補助業務を推進できるような環境作りが進められているのです。

 参考:日本医師事務作業補助者協会

医師事務作業補助者の仕事内容

医師事務作業補助者の仕事内容は、厚生労働省医政局長からの通知、「医師及び医療関係職と事務所員等との間等での役割分担の推進について」に明記されています。主に、医師の指示の下に診断書などの書類作成の補助・診療記録への代行入力・医療の質向上に関わる事務作業などを行います。

これまで医師が行っていた事務作業を代行することで、医師が診療に専念できる環境を整えるのです。

医師事務作業補助は、医師の業務を補助することによって、医療の質を向上に貢献することが重要な役割になっています。

参考:厚生労働省 医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進

電子カルテの代行入力

医師事務作業補助者の主な業務の1つとして、電子カルテの代行入力があります。

本来であれば、診察した医師が電子カルテに記録を残しますが、この作業を代行して行います。これによって、医師は患者さんと顔を向かい合わせて、その様子をうかがいながら診察を行うことができるでしょう。代行を依頼することで、「記録に意識が集中し、患者さんを診ていない」などの状況を防ぐことができ、医療の質・患者満足度ともに高めることが期待できます。

記録自体は代行しますが、記載の内容についての監修責任者は医師です。医師は入力された内容を確認し、承認・保存を行う必要があります。とはいえ、実際の記録時間は大幅に短縮できるので、医師の負担を減らすことができるでしょう。

診断書・主治医意見書等の文書作成補助

電子カルテの代行入力以外にも、診断書・主治医意見書などの文書作成の補助も担います。

医師事務作業補助者が文書作成をする主な書類は次の通りです。

  • 診断書
  • 処方箋
  • 入院診療計画書
  • 患者と家族への説明文書
  • 紹介状
  • 退院サマリー

など。

これらの文書は、全て患者さんの治療や療養に関わる重要なものです。医師事務作業補助者はミスのないように記載をしなければなりません。そして、担当の医師は間違いがないか、しっかり確認をして文書を承認する必要があります。

オーダー補助

電子カルテ内には、診察や検査の予約など、各種オーダーシステムが搭載されていることがほとんどです。

オーダーの内容には、処方・注射・検査・処置・食事などの指示が該当します。これらオーダーは本来医師が行うものです。ただし医師事務作業補助者は、医師の判断・指示に従って、医師の代わりにオーダーの入力を担うことができます。

実際に、医師事務作業補助体制加算を届け出ている医療機関を対象にした調査では、医師事務作業補助者によって、オーダー補助が実施されています。オーダー入力は、患者さんの療養や治療に直接的に影響する業務なので、医師事務作用補助者の経験年数によって、業務を割り振っているようです。

参考:厚生労働省 医師事務作業補助体制加算について

参考:医療情報学 29(6)265-272 医師事務作業補助者の業務と電子カルテ等への代行入力の現状

データ等の入力

医師事務作業補助者は、診療を通して得られたデータなどを入力し、整理・管理を行う業務を担うこともあります。

具体的には、診療に関するデータ、院内がん登録などの統計・調査などです。また行政上の業務である、救急医療情報システムへのデータ入力、感染症サーベイランス事業に係る入力なども含みます。

救急医療情報システムは各都道府県に設置された、救急医療に関する情報集約システムです。感染症サーベイランス事業では、アウトブレイクの検知、院内感染対策の効果各委任などに重要なものになります。

いずれも行政に関わる重要なデータなので、的確に入力業務を代行することが求められます。

参考:日本医師事務作業補助者協会 医師事務作業補助者とは

その他

これまで紹介してきた内容以外にも、次のような業務が医師事務作業補助者に依頼されることがあります。

  • 臨床研究、院内・院外会議の資料作成などの準備
  • 学会や研究会のための資料作成等の準備

これらの業務を医師事務作業補助者が担うことで、医師が専門性の高い業務に集中でき、患者さんへ提供する医療の質をより高めることができるのです。医師の時間外労働の時間を減らすことにもつながります。

カルテ入力の代行のみならず、医師事務作用補助者は多くのデータを取り扱う仕事を任されています。特に患者さんの個人情報に触れる機会が多くなるため、適切な個人情報の取り扱いについての周知徹底が重要です。

医師事務作業補助者が禁止されている業務は?

医師事務作業補助者には禁止されている業務があります。

医師事務作業補助体制加算を届け出ている医療機関は、厚生労働省が定めた施設基準によって、禁止業務が定められているのです。

基本的に医師の指示で事務作業を担う専従者なので、その他の職種の補助業務には携わらないようにしなければなりません。また業務範囲についても、「医師及び医療関係職と事務職員との間等での役割分担推進について」に基づき、医療機関の実態に合わせて適切に定めることが求められています。

参考:厚生労働省 医師事務作業補助体制加算について

医師以外から指示された業務

医師事務作業補助者は、「医師事務作業補助体制加算」の要件で、医師以外の指示は受けないことが定められており、これを守る必要があります。

医療機関には、看護師や薬剤師、理学療法士など、医師以外の医療職者が多数いますが、医療事務との判別がつきにくく、医療事務に依頼すべき内容を医師事務作業補助者に伝えてしまうケースが生じる可能性があります。

そういったトラブルを回避するためにも、医師事務作業補助者自身が自分の業務の範囲を把握し伝える必要や、院内で働くほかのスタッフも、彼らの役割を理解する必要があるでしょう。

受付・窓口業務

受付・窓口業務は、「医療事務」が担当する業務です。医師事務作業補助者は、医師が行う業務の事務の補助を行います。受付・窓口業務は医師が担っていない業務なので、担当の仕事ではありません。

ただし、受付・窓口に訪れた患者さんやご家族からすると、医療事務と同じように見えてしまっても不思議ではありません。

もし、患者さんから声をかけられるようなことがあれば、「受付担当をお呼びします」と一言声をかけ、医療事務に繋げるなどの接遇が必要になるしょう。医療機関の評判にも関わる重要なポイントです。

レセプト業務

レセプト業務とは、診療報酬明細書(レセプト)を作成・チェックし、関係機関に診療報酬請求を行う業務です。電子カルテの患者さんの診療情報から、医療保険の精度に従ってレセプトを作成します。このレセプト作成・請求事務・DPCコーディングなどの一連の業務は「医事課」が担当しています。診療報酬に関する専門的な知識が求められる業務です。

もちろん、入院や外来で発生した医療費の計算や請求は、医師が担当する業務ではありません。このため、医師事務作業補助者の業務には含まれないのです。

運営のためのデータ収集

医療機関では運営や経営維持のために、外来の待ち時間、ベッド稼働率など、さまざまなデータ収集が行われます。これら運営のためのデータ収集は、「診療情報管理士」の担当業務であり、医師事務作業補助者の業務に含まれません。

基本的に院長以外の医師は経営・運営には直接的に関わることがないため、医師事務作業補助者の担当外となるのです。

医師事務作業補助者に運営に関するデータ収集を依頼してはならないことを、各医師や院内のスタッフは把握しておく必要があるでしょう。また、データ収集と同様、医療機関の運営に関する業務も禁止業務となります。

看護業務の助手

看護師の業務の補助は、医師以外から指示された業務にあたるため、医師事務作用補助者の禁止業務の1つです。

看護業務の補助は「看護助手」という職種が担当します。看護助手は、看護補助、エイドと呼ばれることもあり、医師事務作用補助者とは明確に異なります。

しかし、中には医療事務作業補助者の役割を把握していない看護師がいる場合もあり、医療事務と同じような感覚で、何らかの業務を依頼してしまう事が生じるかもしれません。

このような事態を防ぐ為には、院内でそれぞれの職種の役割を明確化し、良好なコミュニケーションが取れるような職場環境づくりが必要になるでしょう。

物品の運搬

医療材料や薬剤など、物品の運搬も基本的には、医師が行う業務ではありません。看護業務の補助に該当する物品の運搬や、医師の指示がない単なる運搬業務は、禁止業務に含まれます。

ただし、医師にとって必要な運搬業務で、医師の指示がある場合には医師事務作業補助者が担当しても問題はありません。

医師事務作用補助者が行ってはいけない業務の線引きは、医師が行っている業務かどうかということが目安になります。加算を届け出ている場合には、禁止業務が行われないように、役割を明確化しておく必要があるでしょう。

電子カルテの導入で負担が心配なら医師事務作業補助者の配置がおすすめ

電子カルテを導入することで、複数人が同時にカルテを利用でき、情報の再利用ができるため文書作成も効率的です。医師の業務負担を軽減し、患者さんへの医療の質も高まることが期待されます。

とは言え、電子カルテを導入しても、医師の労働時間を長時間にする原因の1つが、カルテ関連の業務です。電子カルテの導入を行った場合でも、医師に負担がかかることが心配な場合は、医師事務作業補助者を配置することがおすすめです。

電子カルテの入力作業が削減されることで、医師の業務負担を大幅に軽減できるでしょう。