電子カルテ標準化のメリットと現状
近年高齢化や疾病構造の変化により、自院完結型医療から地域完結型医療が求められるようになりました。このため日本では、各医療機関で情報共有し、継続した医療が実施されるよう電子カルテの標準化を目指しています。電子カルテを標準化することで、情報共有が容易になるなどのメリットもありますが、電子カルテの普及率など課題もあるのが現状です。
この記事では、電子カルテの標準化のメリットと現状について解説します。
目次
日本の電子カルテ標準化の現状
日本では、かねてより2020年度までに400床以上の一般病院における電子カルテ普及率を90%以上にするという目標を掲げてきました。
厚生労働省の調査結果では、令和2年(2020年)には、400床以上の一般病院では電子カルテの普及率が、91.2%となり目標は達成しています。
ところが200床未満の一般病院や一般診療所での普及率は、未だに50%を切っており全国的な電子カルテの標準化にはまだ程遠いのが現状です。
参考:厚生労働省 今後の電子カルテ情報などの標準化に向けた進め方について
クリニック・診療所ではまだ紙カルテが利用されている
厚生労働省から令和4年に発表された医療施設調査の結果では、令和2年の段階で400床以上の一般病院の電子カルテ普及率が91.2%に達しています。
一方、200床未満の一般病院は48.8%、一般診療所は49.9%と小規模な医療機関との普及率の差は歴然です。
出典:厚生労働省 今後の電子カルテ情報などの標準化に向けた進め方について
前回調査の平成29年度よりも普及率はアップしているものの、未だにクリニック・診療所では紙カルテが利用されていると推察されます。
開業から紙カルテの利用歴が長いことや、紙カルテの記載の自由度、低コストなことなどのメリットにより、紙カルテの利用を続けている医療機関があると考えられます。
メーカーによって接続方法やマスターがバラバラ
400床以上の一般病院では、電子カルテの普及率が90%を超えています。しかし、標準化については別の問題として考えなければなりません。
電子カルテの標準化の目的の1つは、電子カルテのデータを医療機関の間で簡単に連携できるようにすることです。そのためには、関連医療機関・地域医療連携・個人健康管理などの共通したシステム化が必要になります。
しかし、日本に置いては電子カルテのメーカーによって、各システム同士の接続方法やマスターそのものもがバラバラなのが現状です。そのため電子カルテ標準化・統一するのに時間を要しています。
コストが高いのも足かせに
標準化するためには、電子カルテの普及が前提です。しかし電子カルテは高いコストが必要であり、普及を妨げる要因の1つになっています。電子カルテの種類やメーカーにもよりますが、オンプレミス型の電子カルテは、初期費用だけで500万円前後が必要な場合もあるのです。
諸外国では政府が十分なインセンティブを保証しており、小規模な医療機関でも電子カルテの普及率は80〜90%を誇っている国もあります。
しかし、日本においては海外ほどの十分な補助がなく、コストが障壁となり電子カルテ導入を困難にしていると考えられます。
電子カルテの標準化のメリットは?
電子カルテを標準化することで、次のようなメリットが得られます。
- システム導入や移行が容易になる
- データの連携ができる
- より正確な問診を効率的に実施できる
- 院内の情報共有もスムーズになる
現在、自院完結医療から地域完結医療が必要になっています。電子カルテ標準化によるメリットは、自院から他の医療機関に情報の受け渡しを容易にすることです。
さらに院内・院外でのデータの連携がスムーズになれば、既存情報の活用ができ、情報の不足や重複した情報収集などが減り、患者さんの負担軽減につながります。
システムの導入や移行が容易になる
電子カルテが標準化することで、システムの導入や移行が容易になります。
現在の医療情報システムの状況は、複数の会社のシステムが接続され稼働している状態です。いわゆるマルチベンダー化しているため、システム同士の接続部分が多くなり、コストや手間がかかってしまいます。
一方でシステムが標準化されれば、システム間の接続やシステムの導入自体も容易になり、コストも削減できるでしょう。
さらに、システムの更新時にもデータの移行が簡単になるため、余計な時間・コストの削減につながります。
参考:医療情報システムの基本
データの連携ができる
電子カルテの標準化が進めば、院外でのデータ連携が容易になります。
とくに現在は、急速な高齢化や疾病構造の変化によって、地域完結型の医療が求められるようになりました。
このため自院の中だけで完結していた時代とは異なり、地域の医療機関とデータの共有をしつつ、適切に継続医療が行われることが求められているのです。
現在の情報共有の方法である、デジタル化した画像データ(CDROMなど)や紙ベースのサマリーなどでは、共有する情報が限られています。
しかし、電子カルテの標準化によって、標準マスタ・標準データマスタが使用できるため、外部の医療機関と多くのデータ交換が可能です。
参考:医療情報システムの基本
より正確な問診を効率的に実施できる
現在、紹介や転院の場合に用いられている紙ベースの紹介状などの情報だけでは、患者さんの状態把握には情報不足が懸念されます。そのため、患者さんやご家族に問診表の記入、問診をお願いする必要があります。患者さんやご家族にとっては、前医で説明したことと同じ内容を伝えるという負担がかかってしまうのです。
電子カルテを標準化することで、他の医療機関のデータを共有できるので、問診を効率的により正確に実施できるようになります。
つまり、これまでの病歴や治療歴、患者さんの人となりなど、すでにある情報を参考にしながら、不足する部分だけを患者さんに確認できるのです。患者さんやご家族、両者の負担も減るでしょう。
参考:医療情報システムの基本
院内の情報共有もスムーズになる
現在の電子カルテのシステムの多くは、オーダーリングシステムや放射線システム、検査システム、薬剤システムなど、複数の会社が提供しているシステムをそれぞれ接続させて利用しています。この状況では、同じ検査でもシステムが異なると、名称・正常値の範囲などが異なるといった問題が生じることがあります。また、同じ薬品でも名称・薬品コードが異なってしまい、情報共有を妨げるだけでなく、ミスにつながる可能性もあるでしょう。
電子カルテが標準化されることで、システム全体が統一され、院内の情報共有もスムーズになることが期待されます。
参考:医療情報システムの基本
電子カルテのデメリットはある?
電子カルテの導入、標準化をすると、情報共有が効率的になるなどメリットは多いです。しかし一部デメリットがあるのも現実です。デメリットを理解し、対処する必要があるでしょう。便利なシステムである分、導入するにはある程度のコストがかかります。さらに、電子カルテを導入して、運用を成功させるためには使い方や情報管理の徹底など、スタッフ教育も重要です。
さらに、近年自然災害時時の停電により、電子カルテが利用できなくなるニュースも見かけます。
コストがかかる
電子カルテは紙カルテとの大きな違いは、高いコストが必要になるということです。
とくに電子カルテの中でもオンプレミス型は、クリニック内にサーバーやソフトウェアなど専用の機器を設置してデータを保存するので、500万円前後の初期費用が必要になります。さらに、5年ほどでシステム更新が必要になり、初期費用と同等のコストが求められます。つまり、初期費用・維持費用ともに費用が高くなってしまうのです。
このデメリットが、クリニックや診療所が電子カルテの導入を見送る要因の1つになっています。
操作方法を周知させる必要がある
電子カルテでは、パソコンやタブレット端末を使って、記録や情報の閲覧を行います。メインではパソコンを使用するため、パソコン操作は必須のスキルです。紙カルテを長年使用してきたクリニック・診療所では、パソコンに苦手意識のあるスタッフもいる場合があるので、操作のレクチャーが必要な場合もあるでしょう。
そして、電子カルテシステム自体の操作を周知する必要があります。電子カルテは業務効率を高める役割もあるので、各メーカーは記録や閲覧がしやすいような工夫を凝らしています。便利な機能、業務効率をよくするために、電子カルテを使いこなせるようにしなければなりません。
情報漏えい対策をする必要がある
電子カルテは紙カルテとは違い、ネットワークに接続したパソコンなどの端末があれば、どこからでも閲覧できます。つまり、電子カルテにログインすれば、部署が異なる患者さんの情報も閲覧できるのです。
しかし、本人の同意や正当な理由なく興味本位でカルテ情報を取得することは、個人情報保護関連法に違反する可能性があります。また、医療従事者には守秘義務があるので、カルテ閲覧で得た情報を漏洩することは刑法に抵触する可能性があるのです。
電子カルテになると、紙カルテの時よりも情報閲覧が容易なので、スタッフの個人情報の取り扱いの意識を高める必要があります。
停電時に利用できない
電子カルテは情報を保存するサーバー、記録や閲覧をするためのパソコンなどの機器は、停電が起きると利用ができなくなります。
院内のサーバーには多くの場合、無停電電源装置を併設していることが多いですが、利用できる時間には限りがあります。電源が確保できず、サーバーやネットワークを利用できなくなれば電子カルテを使用することはできません。停電時・災害時に備えて、紙カルテでの対応ができるような準備をしておく必要があるでしょう。
電子カルテ標準化関連の補助金はある?
電子カルテ標準化関連の補助金については、現在のところ厚生労働省において検討中であり、詳しいことが決定していません。そのため、今後の発表を確認する必要があります。
標準化関連ではありませんが、電子カルテを導入するために利用できる補助金制度として、「IT導入補助金」があります。これは中小企業・小規模事業者が、業務を効率化し生産性を向上させるために、ITツールを導入する経費を一部補助するために策定されたものです。
2022年3月には登録申請が開始されており、通常枠では4次まで募集が行われています。
参考:IT導入補助金2022
標準化にともなう電子カルテの選び方
厚生労働省において、電子カルテの標準化の方向性について検討されています。電子カルテの技術は10年単位で推移しており、厚生労働省では電子カルテシステムなどの製品を統一することは、現実的ではないという認識です。
そのため、既にある電子カルテのシステムに、医療情報交換をしやすいシステム(HL7FHIR)の実装を施すことや、標準的なコード(検査・処方・病名など)を拡大することを目指しています。これらを踏まえて、標準化を視野に入れた電子カルテの選定が必要になります。
現在の電子カルテはマスタ化が進んでいる
マスタとは「マスターデータ」のことで、「システム稼働前から入れる必要のあるデータ」をさします。
現在の電子カルテシステムは、このマスタが実装されていることがほとんどです。
しかも、令和4年3月には、医薬品・標準病名・臨床検査などのマスタが、厚生労働省標準規格として採択され、普及を進めています。今後、各メーカーの電子カルテのシステムに、厚生労働省の標準規格が反映されていくでしょう。
これから電子カルテの導入を検討する場合には、この標準規格が実装されている、もしくは今後バージョンアップが行われるのかを確認することが大切です。
クラウド型の方が安価で便利
電子カルテを選ぶ際には、コストが気がかりです。とくにサーバーや院内ネットワークを設置する必要があるオンプレミス型電子カルテは、初期費用・維持費ともに高額になる傾向があります。
一方クラウド型電子カルテは、オンプレミス型に比べ安価で導入が可能です。クラウド型の場合は、インターネットを介して専門業者のクラウドに電子カルテのデータを保存します。このため、サーバーの設置の必要がなく初期費用は10万円程度、月額利用料金も数万円程度に抑えられます。経営規模が必ずしも大きいとは限らない、クリニックや診療所では便利な電子カルテと言えるでしょう。
操作性が良いものを選ぶ
電子カルテの運用成功のためには、操作性が良いものを選ぶと良いでしょう。
とくに長年紙カルテを使用してきたクリニック・診療所では、パソコン操作に慣れていないスタッフもいる可能性があります。
直感的に操作ができる画面のものや、自由に記載できるメモ機能などがあると、紙カルテをめくるように利用でき便利です。
また、テンプレートがあれば、一から文書作成や記録をする必要がなく、カルテ操作も最小限にできるでしょう。
予約システムとの連携ができれば、受付や予約対応業務が効率的になり、業務効率もアップも目指せます。インターネットで患者さん自身がいつでも予約できるので、リピーターの維持や新規患者さんの取り漏れも生じにくいでしょう。
自院の診療スタイルに合っているものを選ぶ
電子カルテを選ぶ際には、自院の診療スタイルに合ったものかどうかも、重要なポイントです。
クリニックや診療所など比較的規模が小さめの場合は、初期費用やランニングコストを抑えられる、低価格な電子カルテを検討すると良いでしょう。
また、自由診療を扱う医療機関では、電子カルテのシステムが自由診療に対応しているかをチェックしておく必要があります。複数回の診療が必要なコース設定ができる役務管理、患者数統計や収入分析ができるものであれば、クリニック経営に役立てることができます。
自由診療の電子カルテならMEDIBASEにお任せください
「MEDIBASE」は自由診療に特化したクラウド型の電子カルテです。
MEDIBASEはクラウド型なので、高額なサーバー購入も必要なく月額39,800円と低価格でご利用いただけます。
また、自由診療特有の役務管理ができ、一目で現在の治療・施術の進行状況がわかりますし、複数院での利用も可能です。分院で施術を受けた患者さんのカルテ記載もできるため、分院間での情報共有・連携を行えます。
電子カルテを導入することで、業務の効率化を図ることができ、患者さんに対してより質の高い医療サービスを提供できます。
クリニックの開業、電子カルテへの移行をお考えの場合は、ぜひ一度ご相談ください。