紙カルテを利用している割合は?電子カルテが普及しない理由と導入のメリット
日本では、急速にすすむ高齢化や疾病構造の変化に対応するため、地域完結型の医療を目指し、地域包括システムの構築を進めています。地域医療の連携には、電子カルテの標準化が重要な役割を担いますが、日本ではクリニックや診療所での普及率が依然として低く、紙カルテの利用している割合が多いことが推察されます。
この記事では、電子カルテが普及しない理由と、導入することで得られるメリットを解説します。
目次
紙カルテを利用している医療施設の割合は?
厚生労働省の医療施設調査によると、令和2年の段階で400床以上の一般病院の91.2%で電子カルテが普及していることが明らかになっています。「2020年度までに400床以上の一般病院における電子カルテの普及率を90%」にするという国の目標を達成したのです。
一方で、200床未満の一般病院は48.8%、一般診療所では49.9%の普及率で、ようやく5割に程度に達した状況です。このデータより、残りの約5割は現在も紙カルテの運用をしていることが推察されます。
紙カルテのメリット
電子カルテの普及により、デメリットが目立ちがちな紙カルテですが、紙カルテにもメリットがあります。次のようなものが代表的です。
- コストが安い
- 災害や緊急時に強い
- パソコンなどの機器操作が不要
上記のメリットは電子カルテのデメリットを補える、紙カルテの特徴でもあります。
電子カルテに比べコストが安いため、予算を抑えたい開業時に、ひとまず紙カルテを導入する医療施設もあるでしょう。
また電源を必要としないので、災害・緊急時に強く被災した病院で紙カルテが活用されています。また、基本的には紙とペンがあれば運用でき、パソコンなどの機器操作を覚える必要がないのも、メリットでしょう。
紙カルテのデメリット
紙カルテのデメリットは、次のようなものがあげられます。
- 共有に時間・手間がかかる
- 保管場所の確保に難渋する
- 記入者によって読みづらさ、判別に時間が必要
紙カルテは、1人の患者さんに1部しかありません。このため他の誰かが使用している際には、記録や閲覧ができず業務が滞ります。情報共有にも時間がかかります。
また、医師法第24条第2項により、診療録(カルテ)の保管期限は5年間と定められています。このため、患者数が増えるほど保管すべき紙カルテが増え、保管場所の確保に難渋ケースも。また手書きなので、記入者によっては読みづらさがあり、判別に時間が必要なこともデメリットになりがちです。
多くの医療施設が紙カルテをまだ利用している理由
紙カルテにはメリットもありますが、業務効率を考えるとデメリットが気になります。しかし、診療所など規模の小さめの医療施設では、紙カルテが利用されているのです。
その理由としては、次の4点が考えられます。
- 紙カルテの使用歴が長い
- 電子カルテはコストがかかる
- 紙カルテでしか伝えらないことがある
- ITリテラシーのある職員が少ない
これらについて詳しく解説していきます。
紙カルテの使用歴が長いため
開業からの長い期間、紙カルテを使用している医療施設では、紙カルテの運用が当たりまえになっています。このため一見手間に見える、カルテ探し・運搬・回収・格納などの作業もスタッフにとっては当然の業務として定着しています。
スタッフにとっては紙カルテによる運用は、愛着のある慣れた方法なので、電子カルテへの方向転換に抵抗を感じる場合もあるようです。
使用歴が長いからこそ、デメリットによって業務が非効率的になっている部分に気づけないこともあるかもしれません。
コストがかかるため
紙カルテは、基本的にはカルテ用の記入用紙とペン、患者ごとにファイリングする文具などがあれば運用ができます。
一方電子カルテは、カルテデータを保存・管理するためのサーバー、パソコンやタブレット、スキャナーやプリンターといった周辺機器など、導入するまでにかなり高額な費用が必要です。特に、サーバーを院内に設置する必要があるオンプレミス型の電子カルテでは、導入時に500万円程度が必要になるといわれています。
紙カルテに比べると、かなり高いコストが必要な点も、紙カルテの運用を続ける要因の1つなっていると考えられます。
紙カルテでしか伝わらないことがあるため
紙カルテは、記載の自由度の高さが魅力の1つです。特に患者さんの訴える症状を示す部位や、診察中に気になった異常を示す部位など、言葉だけでは表現しにくい場合があります。紙カルテの場合は、身体の絵を描いてそこに印をつけたり、直接情報をメモしたりなど、自由に記載することが可能です。次の診療時にも参考にしやすく、他者にも情報共有しやすいでしょう。
また、電子カルテを導入する場合には、厚生労働省が出している「標準病名マスター」を実装することが通例となっており、病名の表現についても不自由さを感じる医師がいるようです。
ITリテラシーのある職員が少ないため
もともと医療業界はITリテラシーが低い分野であると言われています。特に、長年紙カルテを運用してきた医療施設では、業務内ではパソコン操作をする機会がないことがほとんどでしょう。ITリテラシーのある職員が少ないことも、電子カルテの導入を阻む1つの要因です。
加えて、現在ではスマートフォンの普及が進み、10〜20代の年齢層でもパソコンの利用率が低くなりつつあります。このため、年代に関わらずパソコン操作を苦手とする医療スタッフが一定数いることが予測されるのです。
今後電子カルテの普及は急速に進むことが予想される
紙カルテを使用している医療施設は、まだ多いことが予測されます。
しかし今後は、普及が進んでいない一般診療所などの医療施設で、電子カルテの普及を急速に進める動きが出てくることが予測されます。
その理由としては、
- コロナウイルスの蔓延によるオンライン診療の広がり
- マイナンバーカードの保険証利用の開始にむけた動き
- 厚生労働省からの環境整備の推奨
の3つがあげられます。
コロナウイルスの蔓延でオンライン診療が広まっている
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、オンライン診療が注目されるようになりました。2018年の診療報酬改定で保険適用されていたものの、対象となる疾患が限定されています。
しかし新型コロナウイルスの感染が拡大している状況を鑑み、2020年4月に厚生労働省より通達が出され、一時的・特例的な対応として、医師の判断で初診を含め電話やオンラインによる医療相談・受診ができるようになったのです。
電子カルテとオンライン診療をうまく連携させることで、診療予約やオンライン診療、会計までをスムーズに行うことも可能になります。
参考:厚生労働省 診療録等の電子媒体による保存に関する解説書
マイナンバーカードの保険証利用が始まることも要因の一つ
2021年10月より、マイナンバーカードに紐つけた保険証の利用が可能になっています。
現在、対応していない医療施設や薬局についても、令和5年3月末までには概ね全ての医療施設などでの導入を目指すことになっています。
これにあわせ、健康保険証の資格確認がオンラインで可能になる「オンライン資格確認」の運用も進んでいます。電子カルテやレセプトコンピューターとの連携が可能なシステムで、改修には国からの補助を受けることも可能です。マイナンバーカードの電子情報を読み込むことで、これまで手入力が必要だった資格情報を自動で取り込めるため、受付時の手間が減り入力ミスもなくなります。
これを機に、電子カルテを導入し業務の効率化を一気に進めることも可能でしょう。
参考:厚生労働省 オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)
厚生労働省からも環境整備が推奨されている
厚生労働省からの通知である、「診療録等の電子媒体による保存について」では、医師法・歯科医師法に規定する診療録等を、真正性・見読性・保存性の3つの基準を各施設で担保したうえで、電子媒体に保存することを容認しています。つまり紙カルテを電子化して保存できるのです。
また、電子カルテは「IT導入補助金」の対象です。自院の課題を解決し、生産性を高めるためのITツール導入経費を国が一部補助してくれます。
2022年3月には登録申請が開始されており、通常枠では4次まで募集が行われています。
※参考:IT導入補助金2022
電子カルテを導入するメリット
電子カルテは、紙カルテに比べてコストが高く、導入するのを躊躇してしまうかもしれません。また、パソコン操作の習得など、デメリットを感じる場合もあるでしょう。
しかし、デメリットばかりではなく、電子カルテは紙カルテのデメリットを補えるのです。業務効率の大幅な改善や、患者さんへの医療の質の向上を目指します。
ここからは、電子カルテを導入するメリットについて解説していきます。
リアルタイムでの情報共有が可能になる
電子カルテは、カルテにログインできる端末さえあれば、複数人が同時に1人の患者さんのカルテを閲覧・編集できます。
紙カルテのように自分の手元にまわってくるまで、情報の確認ができない、自分が持っている情報を他のスタッフに共有しにくいといった課題を解決できるでしょう。
端末さえあれば、どこからでもカルテを閲覧できるので、例えば医師が病棟内にいない場合でも、患者さんの情報をリアルタイムに確認することが可能になります。
字が読みやすくなる
紙カルテは手書きなので、「字が読みにくい」「書いている指示の判別に時間がかかる」などの問題が生じがちでした。
一方電子カルテは、パソコン・タブレットなどで記録するため、基本的にはデジタルです。誰が記録をしても、いつでも字は読みやすい状態です。
さらに電子カルテは、医師からの指示内容・内服のオーダー・点滴のオーダー・検査のオーダーなどが、項目別に表示されるシステムがほとんどです。どこに何が書いてあるのか一目瞭然なので、指示の見落とし、投薬忘れなどのミスを防げるでしょう。
スペースの確保が不要になる
診療期間が長い医療施設ほど、患者さんの数が多くなり、紙カルテの数も増えていきます。診療録は法律によって、「診療が完結した日」から5年間の保管義務があるため、保管スペースの確保が必要です。
電子カルテであれば、データはデジタル化されるため、紙カルテのような保管スペースの確保は不要になります。
ただし、オンプレミス型の電子カルテは、データの保存・管理に専用のサーバーが必要です。このサーバーを設置するスペースの確保が必要ですが、紙カルテのように増えることはありません。
文章作成や会計業務が効率化する
電子カルテには、診断書や他の医療施設への紹介状といった、各種書類のテンプレートが準備されています。さらに、自院の特徴に合わせたランプレートを作成できるシステムもあります。電子カルテであれば、患者さんの過去の記録も簡単に閲覧でき、書類作成時には転記も容易です。転記ミス・情報漏れを防ぐことができ、書類作成の時間も大幅に短縮できるでしょう。
また、会計ソフトが一体になっているもの、あるいは連携できるシステムがほとんどなので、会計処理もより簡単です。会計ソフトと電子カルテが連携できれば、処理も早くなり患者さんの会計待ち時間も短縮できます。
患者さんへの説明の質が上がる
電子カルテは検査データや、レントゲンやCTなどの写真を取り込めます。診察室で、患者さんと一緒に画面を見てもらいながら治療方針や結果を説明でき、インフォームドコンセントの質を高められるでしょう。
特に美容外科や美容皮膚科、審美的な歯科治療などは、手術計画を立てる際に写真を用いた患者さんへの説明が非常に重要です。
患者さんの要望を聞きつつ、適応できる範囲を検討し説明し、患者さんが納得できる治療計画を一緒に立てるのに役立つでしょう。
電子カルテを導入するときのポイント
電子カルテを導入する場合には、自院の診療や特徴、規模に合ったシステムを選ぶことが重要です。一度導入すると簡単に変更はできないものなので、慎重に決めていく必要があります。また導入コストを含めて、自院の規模に合ったものかどうかを検討しましょう。
スムーズな導入をするためには、具体的な移行方法や計画を立てて、スタッフと協力できる体制を整えることが大切です。
近年はクラウド型電子カルテが主流
オンプレミス型の電子カルテは、院内にサーバーを設置する必要があり、初期費用で500万円程度の高いコストがかかります。
一方クラウド型の電子カルテは、インターネットを介してクラウド業者が管理するサーバーを利用するため、サーバー購入が不要です。このため、初期費用が10万円程度、月々の利用料も数万円とコストを抑えることが可能です。
クラウド型の電子カルテでは、カルテデータをサーバーに送る際、万が一外部から見られるようなことがあっても判読できないように暗号化されています。また、通信自体も暗号化され、不正侵入検知システムなどのセキュリティ対策が充実しています。
近年では、低コストであることやセキュリティの向上から、クラウド型が主流になっています。
移行方法を決めておく
紙カルテから電子カルテに移行する際には、移行方法を決めておくとスムーズな運用が可能です。
電子カルテと紙カルテは併用をすることも可能なので、併用することで業務負担を軽減しながら、移行作業をすすめることができます。
移行方法として用いられるのは、「新規患者さんは電子カルテに記入」「再診患者は紙カルテのまま」のパターンを取ることが多いようです。
このように電子カルテ化する対象患者の範囲を決めておくと、通常業務と並行しながら電子カルテへの移行を進められます。
紙カルテの量が少ない場合は、全て電子データ化しても良いでしょう。
自院の規模や診療科に合ったものを選ぶ
電子カルテは、自院の規模や診療科の特徴にあったものを選びましょう。
特に、扱う診療が保険診療か自由診療のどちらがメインなのかは、必要な機能に違いがあるため確認が大切です。
これまでは自由診療に対応した電子カルテはほとんどありませんでしたが、近年、自由診療や診療科そのものに対応した電子カルテシステムが提供されています。
また、搭載されている機能が、自院にとってメリットのあるものかも確認するのも大切です。選べるオプションがあれば、不要なものは削減すると費用を抑えられます。コストと機能のバランスを総合的に見て、選択する必要があります。
自由診療の電子カルテならMEDIBASE
MEDIBASEは、自由診療に特化したクラウド型の電子カルテです。
複数回の施術コースを管理できる役務管理や、売り上げや来院患者数などをデータ化し、経営管理をサポートします。月額の利用料は39,800円からで、利用人数や端末台数は無制限です。
さらに、MEDIBASEは2022年6月から、IT導入補助金の対象ツールにも認定されています。申請して採択されると、導入時にかかる費用の1/2以内(30万円〜150万円未満)を補助金として受け取れます。
クラウド型・自由診療特化型の電子カルテで補助対象になっているのは、MEDIBASEのみです。(2022年6月時点)
電子カルテの導入をご検討の際は、ぜひ一度ご相談ください。